確かにバスはガラガラで通勤は楽にはなったのだが、どうも馴染まない。 って、まだ2日だから馴染まないのは当たり前か。 そのうち、これが当たり前のリズムになって、10月初めにまた同じようなことを思うのだろうか。
「毎年のことなんだけど、高幡不動の参道が、七夕飾りで大変なことになってるんだよ。 大きな笹に短冊がいっぱいぶら下がってさ」
「ああ、そう言えばそんな時期ですね」
「その中に、『おおきくなったらキリンになりたい』て書いてあるのがあったんだよ」
「え? キリンですか? 動物の?」
「たぶん。 これ、『大きくなったら』を、成長じゃなくて物理的に大きくなったらって考えたのかな」
「どうですかね。 子供のことだから、普通に、大人になったらって思ってるんじゃないですか?」
「そうか。 それって、ザムザみたいに、ある日起きたらキリンになってました、みたいな変化なのかな」
「どう変化していくかなんて、考えてないんじゃないですか?」
「やっぱりそうか。 っていうか、だんだん人から麒麟に変化していくとか、リアルに想像できたら絶対に採用しない願い事だよな」
「あはは、それは確かに」
「だから、その子のためにも、心の中で突っ込んどいたよ。 お前の願いは叶わないって」
「あー、またそんな大人気ないことを」
「いや、でも、叶ったら困るだろ? だからさ。 諦めずに頑張れば、いつか夢は叶うとか思ってないか? それ、嘘だから。 どう頑張ったって駄目なんだよ。 まして短冊ごときで叶えてもらおうなんて、絶対無理。 織り姫なんて、彦星に1年振りに逢って、最初にすることが浮気のチェックだからね。 人の願いなんて、もう。 なんて」
「そーゆー駄目なことを言ってるときって、ほんとノリノリですよね」
「あー、まあ、それは認める。 でも、子供気ない願いも多かったよ。 金とか」
「ははは。 その金も、仕事して儲けるとかじゃなくて、宝くじだったりするんですよね」
「たぶんね。 そして、こいつの願いも叶わない」
「またそんな」
「ああ、でも金よりは麒麟の方が可愛らしいか」
「そうですよ。 子供らしくて良いじゃないですか」
「そっか。 じゃあ、諦めたらそこで終わりだよ?」
「安西先生ですか」
「いや、今はキューベーだったんだけど、キューベーは知らないよね?」
「知らないです。 何ですか、それ」
「いや、知らなくていい」
そんな馬鹿話をしながら iPhone を弄っていたら、保護フィルムに傷がついているのに気がついた。 で、新しいのを買おうと帰りに八王子のヨドバシカメラに寄ったら、 「iPad2 WiFi タイプ在庫あります」 の張り紙を発見。 昨日、買うつもりで金をおろしていたので、そのまま買ってしまったのだった。 64G の WiFi タイプ。
ところで、実際にキリンになりたいという願いがかなったら、きっと激しく後悔するんだろうな。 そしてキューベーに言われるのだ。
「僕はただ願いを叶えただけだよ。 感謝こそされても、責められる謂れは無いよ。 願いがどんな結果をもたらすか、あらかじめ考えておくのは、願う側の責任だからね」