隣のスーパーで、レジに並んでいた。 俺の前にいたのは婆さん。 店員に告げられた金額を、もたもた財布から取り出そうとしていた。 店員が、店の袋を取り出そうとして落としてしまい、代わりの袋を出して、婆さんの籠に入れた。 落とした袋は足で拾い上げて、横のボードにかけた。
俺の番が来た。 ちょっとしか買ってないので、あっという間に集計が終わった。 店員は、金額を告げると、振り向いて、ボードにかけていたさっき落とした袋を、俺の籠に入れた。
「これ、さっき落とした袋だろ?」
「あ、取り替えます」
「それでさぁ、落とした袋を出すのは、なんで?」
「あ、はい、あのー、ちょっと落としてしまって、汚れてたんで、新しい袋にしました」
「俺に言われてね」
「はい、そうです」
「だから、落としてしまって、汚れてた袋を出したんだろ?」
「いや、これは新しい袋です。 汚れてないです」
「さっき、落とした袋を出したのは何でかって訊いてんだよ」
「はい、あのー」
「汚れてると思ったから、取り替えたんだろ?」
「そうです。 新しい袋に替えました」
「じゃあ、何で最初は、その取り替えたほうがいいと思う汚れた袋を出したんだ?」
「あ、ちょっと落としてしまって、取り替えた方がいいかと思って、取り替えました」
「自分からやったんじゃなくて、俺に言われてだろ?」
「はい、そうです」
と、かみ合わない会話をしばらく続けて、この店員に対してずっと持っていた疑惑が、確信に変わった。 こいつは 境界線上の人 なのだ。 それで、ぐだぐだ言うのを止めて、 「もういいよ」 と帰ってきた。 彼がいかにも境界線の向こうの人だったら、俺はきっと何も言わなかっただろうと思う。 ま、初めから 「袋を替えてくれ」 とだけ言えばいいのだが。