ベルを鳴らそうと指を掛けたら、ベルごとぐるっと回ってしまって、びっくりしているおばさんを見た。 おばさん、自転車を止めて、逆さにぶら下がっているベルをまじまじと見ていた。
その数分後。 立ち上がって勢い良く踏み込んだら、ペダルが外れてしまって、派手に声を上げたおっさんを見た。 ペダルが片方だけになってしまっては、さすがに乗り辛いのだろう。 おさっん、落ちたペダルを拾うと、来た道を自転車を押して戻っていった。
人生いろいろだ。
「はい、これ。 確かめてハンコ押して返してね」
「ん? あ、保険のやつね。 はい、即返し」
「保険、入ってないの? 入って忘れてんじゃない?」
「いや、入ってないんだよ。 死して屍拾う者無し」
「あー、私そーゆー諺に弱いんだよね。 シカバネ? は聞いたことあるけど」
「諺じゃないんだけど、まあ、似たようなもんか。 ちなみに屍は死体」
「でも年金は入ってるんだね。 年金はねぇ、やっといた方がいいよ」
「うん、何となくね。 死ぬまでは生きてるし」
庶務さんとそんな話をした後で考える。 死ぬまでは生きてるんだろうか。 死んでないから生きているってのは、医学的にはそうかもしれないが、じゃあ人としてはどうだろう。 最近、長寿日本一だった婆さんが死んだ。 彼女は、一日起きて一日眠るというサイクルだったんだそうだ。 起きているらしい時をテレビで見たのだが、起きていても半分死んでいるようだった。 あれはもう 「尊い命」 では無いような気がした。
先日、仕事の帰りに鼬(だと思う)を見た。 闇から俺の前に駆け出してきて、結構高い工場の金網を乗り越えて、また闇に消えていった。 金網を乗り越える途中で目が合ったそいつは、都会に残る中途半端な野生のくせに、何だかギラギラして見えた。