広島駅で帰りの切符を買ったら、財布の中に残ったのは僅か2000円。
昨日、虚しく仕事を終えて(?)のこと。
「何か食べに行こうか。 って言っても、この近所には何もないんだよね」
「そうみたいですね」
「あ、そうだ。 課長が勧めてた『牡蠣船』に行ってみる?」
「いいですよ、それにしましょう」
「いったんホテルに帰って荷物置いてくる?」
「いいですよ、牡蠣船ってホテルに近いし」
「近いの?」
「はい。 僕、前の出張のときに、店がどこにあるかだけはちょっと調べたんですよ」
ということで、牡蠣船の前まで行ったのだが…
「メニューがありますよ。 さすがに牡蠣が多いですね」
「そりゃ牡蠣船だからね。 えーと… 牡蠣会席8000円… え、8000円?」
「うわ、他のも皆そんな値段ですよ」
「ここは俺たちが入る店じゃないな」
「ですね。 もう1軒あるんですけど、そっちに行って見ます?」
「向こう岸の奴?」
「はい。 あっちは定食なんて書いてありますよ」
「定食ってことは、きっと庶民派だよね」
店の前にあるメニューを見ただけで入らず、対岸の牡蠣船へ…
「あ、ここも店の前にメニューがある」
「ちょっと見てきます。 えーと… 850円です」
「定食が?」
「たぶん。 あと、1250円とか」
「そうそう、それが庶民の値段だよね。 じゃあここに」
「あ、すいません。 桁を間違ってました」
「は?」
「0を一つ見落としてました。 8500円です」
「はぁ、牡蠣船は牡蠣船ってことか。 居酒屋にでも行く?」
結局牡蠣船を諦めて居酒屋へ。 「牡蠣ちゃんこ」 が売りの店を選んだのは、せめてもの慰めってところか。 ま、牡蠣ちゃんこは牡蠣ちゃんこで(居酒屋メニューにしては)旨かったからいいんだけど。 仕事の電話で吃驚したりがっかりしたり愚痴をこぼしたりしながら食べて、食べ終わって。
「渡邊さん、2000円だけ出してください」
「え、なんで?」
「この前、徹夜に付き合って頂いたからです」
「あははは。 なんだ、気にしてたのか」
「そうです。 東北人は義理堅いんですよ」
「ちなみに、俺も今同じことを言おうと思ってたんだけどね。 一人置いて帰る訳だし」
「いえ、それはしょうがない事だし、いいです。 ここは僕が出します」
「ふーん。 ま、そう言うなら、はい、2000円」
なんてことがあったのだった。
これがもし牡蠣船に入っていたら、もし格好つけて俺が沢山払っていたら、帰りの切符が買えなかったのだな。 危なかった。 しかし、恩は売っておくものだな。