通勤快速。 車輌の一番奥、連結部の横のドアにある手すりにもたれていた。 目の前に座っているオッサンの口が半開き。 眠っているらしい。 ちょっと向こうには、思いっきりいびきをかいて眠っているオッサン。 無様だなぁ。
府中だったかな。 女の人が、俺の後ろに背中合わせに立った。 背中でじわじわ押してくる。 鬱陶しい。 何でわざわざ狭い所に入ってくるんだよ。 と、押してくるのに抵抗していた。
「すいません、狭いんですけど」
「は? だから何?」
「何でそうやって幅寄せして来るんですか?」
「そっちが後から来たんでしょう」
「だってあなた吊革持ってるじゃないですか」
「狭いのが嫌なら、そっちに行けば? 開いてるでしょ」
「これから人がたくさん乗って来るんですよ」
「まだ来てないじゃん。 詰めるのは来てからにすればいいでしょ」
黙ったと思ったら、また背中で押してくる。 俺もまた抵抗する。 と、
「最低!」
捨て台詞を残して、隣の車輌にいってしまった。
おいおい、そりゃないだろう。 幅寄せしてきたのはそっちだろ? それも、まだ開いているところがあるのに、わざわざ狭いところに入ってきて。 で、それを 「そっちが後から来た」 と指摘すると、今度は吊革を持っているから譲れという。 幅寄せはどうなったんだ? 幅寄せしたのは自分だってことを認めたのか?
これから人が乗ってくるからと言って、まだ混雑して無くても詰めておく必要があるか? 無い。 あんたは、がらがらの電車でも、きっちり隣と詰めて座ったりするのか? そんなことしないだろうに。 まだ空いているうちから窮屈な思いをしなくてもいいってのは、間違ってるか?
ドアにもたれるのが楽だと思ったから、わざわざ狭いところに入ってきたんじゃないのか? それで、前の人でなく、後ろにいた俺を背中で押す。 なんで前の人を押さないんだ? 手で押すんじゃなくて、背中で押すのはなんで? そこに俺は狡さを感じるんだけど。 しかも 「ちょっと詰めてくれ」 じゃなくて 「何で幅寄せするんだ」 と、全面的に相手が悪いという態度。 挙げ句は 「最低!」 なんて捨て台詞。 あんたが俺を 「最低」 だと言う理由が、自分だけ良ければいいと譲り合わないことなら、同じ理由であんたも 「最低」 だよ。