ずいぶん早く目が覚めたので、米を炊いてみた。 でもおかずが何も無くて、ご飯にふりかけのみという朝食だった。
「今日もどっか行くの?」
「浜松町。 かったりーよ」
「最近おやじが口内炎が凄くてさあ。 もう喋ることもできなくなってんだよ」
「ふーん」
「それで病院に行ったら、黴が生えてんだって。 口の中に黴」
「水虫みたいなもんか」
「そう。 湿気も栄養も豊富だからね。 あーゆーのって、どうやって直すんだ?」
「やっぱ薬なんじゃない。 あとは熱湯を飲み込んでみるとか」
「死んじゃうよ」
「凍らせて細胞膜を破壊するとか」
「死んじゃうよ」
「部品が交換できればいいんだよな。 調子悪いところだけ新しいのにさ」
「そのうちそうなるのかね」
「なると思うよ。 お茶の水辺りにパーツショップなんかできてさ」
「そんなお手軽に売るの?」
「そう。 で、本当にそうなったら、俺は全身取り替えて藤原紀香になる」
「お前がなるのかよ」
「おう。 脳が渡邊博之で、他はぜんぶ藤原紀香」
「自分がなって何すんだよ。 まぁすることはいろいろあるんだろうけど」
「いろいろね。 あ、でもそれって性同一性障害って言うのかな」
「どうだろう。 性同一性障害ってのも、よく判んない障害だよな」
昼飯食いながらそんな話をして、1時過ぎに出掛けた。 浜松町に着いたら、そこの部長がいない。 急な用事で富士に出張ということだった。 結局、わざわざ他から浜松町にきた人だけで打ち合わせ。
コンビニでおにぎりと缶チューハイを買って、家に帰って気がついた。 朝、米炊いてたんだった。
もう何もかもが無駄。