ときめきメモリアル

夜明け前

ちょっと早く目が覚めたので外に出てみた。 涼しい風が気持ち良い。

東雲ってのはこんな景色なんだろうなぁ… なんて思いながら空を眺めていて思い出したのだが、広島には東雲という地名がある。 広島市内東寄り。 市の中心街から見て東にあるからついた地名じゃないかと思うのだが、実際どうなのかは判らない。 俺の家は同じ広島市内でも東雲より更に東だったので、東雲の東雲感は俺的には皆無だった。

その東雲に親戚がいて、子供の頃はよく行っていた。

伯母は自宅で着付け教室をやっていて、二階には教室で使うマネキンが置いてあった。 着物の着付けの練習用なのに、外人顔の外人体型のマネキン。 まあ、日本人顔の日本人体型のマネキンなんて無いんだろうけどさ。

そのマネキンが怖かった。

明るい中で見ると綺麗でいい感じだったのだが、暗い部屋に立つ姿は怖かった。

親戚の家に泊まるときはマネキンの隣の部屋で寝るのだが、さあもう寝ようと二階に上がるときが恐怖の時間だった。 二階の部屋は真っ暗。 階段の灯が部屋に漏れこむのを頼りに部屋の真ん中にある蛍光灯の紐を手探りするのだが、その途中にだんだん暗さに目が慣れてきて、蛍光灯の紐より先に奥の部屋のマネキンが薄ぼんやりと見えるようになるのだ。

怖い。

でも目が離せない。

注意がどうしてもそっちに行くものだから、蛍光灯の紐を探し当てるのに余計に時間がかかって、ますますマネキンが見えてしまう悪循環。 部屋の明かりをつけて襖を閉めるまで、毎回無駄にドキドキしていた。

その家はもう無い。

東雲の一帯は再開発の対象になり、親戚は市内北寄りに引っ越した。 その後、伯父は亡くなり、伯母は呆けて介護施設暮らし。 マネキンがどうなったのかは分からない。