2018 08 14

肌に食い込む縄の跡

東京国立博物館でやってる通称縄文展、正式には 縄文 1万年の美の鼓動 を見に行ってきた。 凄い人混みで見るのに苦労したが、苦労以上に見応えがあった。

展示は主に土器。 次いで土偶。 石器が少し。 藤細工の化石(なのか?)も数点あった。

土器は大量に展示されていたが、時代の名前にもなっている典型的な縄模様の土器はあまりなかったな。 今日ここで展示していないだけで数としては圧倒的に多いから、縄文式であり縄文時代なんだろうが。

いや、一口に縄文時代というが、一万年以上もあるんだよな。 始まったのがだいたい13000年前で、次の弥生時代がだいたい2400年前から。 それ以降の、それなりに記録の残っている歴史のおよそ5倍。 なんとか時代と名前がついた日本史の中では縄文がぶっちぎりに長いのだ。

まあ、細分化できる程の情報が無いだけなんだけどさ。 俺が子供の頃の教科書では、始まりは10000年前から5000年前と諸説有りな状態だった記憶があるが、研究が進むにつれて始まりも遡り、今では13000年前からとなっている。

って、そんなことはどうでも良いか。

土器

典型的な縄文の土器は少なかったが、代わりに多かったのが火焔式。 これがもう圧倒的だった。

火焔という名前の由来となった土器上部の装飾もだが、表面を埋め尽くす模様も凄い。 当時流行ったデザインだと思うが、何か呪術的な意味、例えば 「食べ物を腐らせる悪い精霊が入り込むのを防ぐため」 だと言われたら、そうじゃないかと思ってしまう勢いがある。

が、勢い優先の感もある。 きっと構想段階では円周を均等に埋めるはずだった模様が、一部だけ間隔が狭かったりするのもちらほらあった。 後先考えずに書き始めたらスペースが足りなくなって最後は小さな字になるという、ダメな習字のパターン。

装飾の派手なものを一括りに火焔式というのだと思っていたが、王冠式というのもあった。 言われて改めて見れば、確かに火焔よりは王冠という感じだったな。

火焔式と同じ時代に、全く趣向の違うものがあった。 初期の抽象画やキュビズムのような、近代ヨーロッパ風の模様の土器。 火焔式や王冠式をたっぷり見た後だったこともあって、これらがとても斬新に見えた。

作った人たちも、同じ感覚だったのかもしれない。 火焔式や王冠式という当時の主流に反発して、何か新しいものをと試行錯誤した結果なのかも。

同時代、およそ5000年前の他文明圏の土器も展示されていた。

メソポタミアまでは、だいたい西に行くほどシンプルになる。 その先、バルカン半島あたりまで行くと、また少し派手になってくる感じ。

もっとも装飾は基本的に彩色で、縄文のような形状での装飾はほぼ無し。 縄文だけ全然違っていて、ちょっと笑ってしまった。 こうして比較して見ると改めて思うが、縄文式ってやっぱり普段使いの日用品じゃないよな。

普段使いの日用品で比較するなら、日本のは縄文後期か弥生初期のものが適当だろう。 時代が全然違うけど。 火焔式と比較するなら、各文明圏での祭具だろうか。 中国なら、饕餮紋でおなじみの殷の青銅器とか。 やっぱり時代が違うけど。

土偶

遠い昔に教科書で見たメジャーどころが一堂に会していた。

国宝扱いの土偶は、教科書の写真から想像していたよりもずっと大きい。 そして何かこう、ぐっと訴えてくるものがある。

遮光器土偶って、俺はあの有名なのが一つだけだと思っていたのだが、実はいろんな大きさのものが作られていたんだね。 しかも大きさだけが違うものもあれば、微妙に形や装飾(?)が違うものもあった。 不勉強だったよ。 遮光器土偶好きなのに。

あの土偶が何に使われていたのか、今となっては知る術もない。 そしてよく判らないものは宗教的な儀式に使われるものとするのが、考古学の通例。 そうしてしまうのは、自分が発掘・発見したものが価値あるものであってほしいと思うからだろう。 要は無意識のバイアスがかかっている状態なのだが、そんなバイアスを排除するのは、無意識だけに難しいんだろうな。

ちなみに俺は 土偶はガンプラ だと思っている。

大きさの違いは 1/144 や 1/100 というスケールのバリエーション。 そして、量産型ザクかシャア専用か、ジムかガンダムかといった違いが、微妙な形状の違いになっているのだ。

もちろん当時にガンダムなんてないので、モデルになっているのは伝説に登場する人や妖怪や宇宙人だったりするんだろうけどさ。

つまりは子供の玩具だが、大人も結構ハマる玩具なんだな。 そしてきっと土偶オタクにコレクションされたのだ。

「マスターグレードの遮光器付き水陸両用、ついに買っちゃったよ」

「え、まじで? あれ、どんぐり1年分だよね?」

「うん。 ちなみに12回の分割払い」

「あー、そりゃ1年分じゃそうなるよな。 でも奥さんよく許してくれたね」

「…実はまだ言ってない」

「うわぁ…」

そんな5000年前の日本。

石器

旧石器時代から縄文草創期の石器が展示されていた。

以前、確か大英博物館展で見た時も思ったが、石器って意外に加工レベルが高いんだよね。 生活がかかってるんだから道具にも拘るだろうが、その拘りが予想外のレベルの高さ。 石器時代って、毛皮着て石槍持ってウホウホいってるイメージだったりするのだが、実際の石器はそんなイメージを払拭してくれる。

黒曜石のナイフ。 石を割り砕いて作ったとは思えない整った形。

磨製石斧。 どんだけ磨いたんだと突っ込みたくなるツルツル具合。

ヒスイの装飾品。 紐を通すためと思われる小さな穴が空いているのだが、その穴がとってもテクニカル。 いったいどうやって開けたのか。 石の粉と木の枝とか使ってたのかな。

+

基本的に展示品の写真撮影禁止なのだが、携帯電話のカメラで堂々と写真を撮っている爺さんがいた。 ギャル風の若い女が、すぐ後ろから 「ここって撮影禁止じゃない?」 なんて言ってたが、爺さんは無視して撮影。 ギャルの 「チッ、老害が」 なんて罵りにも無視を貫いていた。

責められる理由が自分にあることを棚に上げて、責める言葉に 「そんな失礼な言い方するな!」 と切れるのが老害。 無視するだけで逆ギレしなかったのは、老害の中ではまだマシな方だったのかもしれないな。 或はギャルが怖かったのか。

「ギャル強いね。 私はあんな風に注意できないなぁ…」

と、連れのお嬢さんはギャルに感心していたが、うっかり注意したら殺されたりする世の中だからね。 そういうのはギャルに任せておくのが正解だろう。

一応写真撮影可のコーナーもあったのだが、あの爺さんが撮りたいものは違ったんだろうな。

土偶の1

写真撮影可のコーナーにあったモビルアーマーの土偶。

土偶の2

横から見たモビルアーマー。

土器

土器。 展示品の中ではかなり地味な方。