1999 07 17

私はガメラを許さない

真昼の暑さに部屋でぐったりしていたら、キャッという軽い悲鳴と、何かが倒れるカシャーンという音。

また事故か。 でもこの音からすると、大したこと無いんだろうな。 そう思いながらもベランダに出て見た。

接触という程度の事故らしい。 中学生ぐらいの女の子が、肘をさすりながら、自転車を起こしていた。 自転車と接触したらしい白い自動車が、10mぐらい先で左に寄せて止まった。

上から見ると、状況が何となく判る。 歩道の半ばを塞いでクリーニング屋の車が止まっていた。 自転車は、道路の向こうのレンタルビデオに行こうとしたのか、隣のスーパーに行くのに狭い歩道を避けたのか、とにかくそのクリーニング屋の車の陰から車道に出た。 そこに自動車が走ってきていた。 まぁそんなところだろう。

白い車のドアが開いて、ジャージを着たメスのガメラといった感じのおばさんが出てきた。 もの凄い形相で女の子のところに歩いてきて、 冗談じゃないわよっ! と、最初にかけた言葉がこれだ。

「何で飛び出してくるのよ! こっちは赤ちゃんが乗ってるんだから。 スピードも落としてたし、とっさによけたわよ。 だけど、何で飛び出してくるのよ!」

(女の子が謝る)

「あんたが謝ったってねぇ、そっちこそ怪我はどうなのよっ!」

(女の子が肘を見せる)

「あんたも痛いかもしれないけどね、こっちは赤ちゃんが乗ってるのよっ! とっさにハンドル切ったからよかったけど、何で飛び出してくるのっ!」

ずっとこの調子で、強引に高飛車に頭ごなしに、とにかく悪いのはお前だと主張していた。

ガメラにしてみれば、事故った瞬間は、 「やってしまった」 という思いしかなかっただろう。 それが見てみると、肘をすりむいたぐらいで、けっこう平気でいる。 中学生ぐらいの女の子が。 ほっとすると同時に、さっきまでの驚きと恐怖が怒りに変わったのだろう。 もっとも、本当に怒っていたのは最初だけで、後は演技だと思うが。

「車の陰から人が出てくるかもしれないのに、何でもっと注意してゆっくり走らないんだ」 と言う方が筋だし、 「こっちには赤ちゃんが乗っている」 かどうかは、飛び出した女の子が知るはずもない。 赤ちゃんが大事なら、運転している自分が気を付ければいいことだ。 「とっさにハンドルを切った」 というのも、怪しいものだ。 どちらかといえば自分の方が分が悪いことに気付いていたからこその、強引な自己正当化ではないかと思うのは、ガメラを買いかぶっているだろうか。

女の子の親がきて、警察がきて、どうやら示談ということで落ち着いたらしい。 誰が来ようが、とにかく女の子が悪いと言い続けたガメラが、女の子に言った最後の言葉。

私は、親でも言わないことを、言ってあげたんだからねっ!

もうどうしようもないな。 それをずっと上から眺めていた俺もどうかと思うが。