2001 07 19

さっき見た夢の話

長い夢を見た。

向かいに座った老婆から、スカーフを貰った。 赤地に所々緑の模様が入っていて、あまり趣味がいいとは思えない、少し小さめのスカーフ。

「このスカーフを首に巻くときは、角度に気をつけなさい」

そう言って、老婆はスカーフを俺に手渡した。

改札を出てすぐに、迎えに来ていた友人を見つけた。

「よう」

「久し振り」

そのまま車に乗り込む。

「電車の中で、こんなものを貰ったよ」

と、さっき貰った赤いスカーフを広げて見せた。 広げたついでに、首に巻いてみる。

「首に巻くときは、角度に気をつけなきゃいけないんだってさ」

「あの娘がしていた真っ赤なスカーフ… って、あったよな」

「古いな。 ま、これをくれたのも、かなり古いあの娘だったけど」

そんなことを話しているうちに、屋敷についた。

「もう始まっているはずだから」

と、挨拶は後ですることにして、そのまま車を屋敷の裏に回す。 裏庭には既に大勢の人が集まっていて、それぞれが忙しそうに動き回っていた。

「ちょっと娘を見ててくれないか?」

「え、俺が?」

「今、忙しくないのって、お前しかいないんだよ。 頼むよ」

「子供は好きじゃないんだけどなぁ」

「ちょっとぐらい泣かしてもいいからさ」

ちょっとぐらいがどの程度なのかは知らないが、泣かしてもいいのなら、俺も気が楽だ。 それに確かに暇ではあったので、しばらく子供の相手をすることにした。

おかっぱ頭の女の子。 珍しそうに俺を見ている。 いや、見ているのは俺のスカーフか。

「だっこして」

と、手を伸ばすのを、しゃがんで抱き上げた。

気が付くと、車の中にいた。

「?」

「あ、気が付いたか。 悪かったな」

「何かあったのか?」

「実は、娘がお前を殺しちゃってさ」

「なんで?」

「スカーフが曲がってたから、首を絞めたんだってさ」

「あ、そうなんだ」

「うん。 今、お前の葬式が始まったところだよ」

「ふーん」

動き出した車の中、振り返って、だんだん遠くなる自分の葬式をしばらく見ていた。

特急は、終点近くになって地下に潜った。 地下トンネルは、上りと下りの線路が大きな柱の列で区切られていた。 すれ違う電車の明かりに、一瞬、柱にもたれて座っている髪の長い女が見えた。 女が、こっちを見てにっと笑ったような気がした。

電車を降りて、薄暗く長いホームを歩いていた。 たくさんの人が、黙って、俯いて、同じペースで歩いていた。 20分ほど歩いて、ようやく改札が見えてきたとき、ずっと後ろの方から小さな声が聞こえた。

「だっこして」

振り返ると、遥か遠くに、さっき電車の中で見た髪の長い女がいた。 両手を前に伸ばして、こっちに向かって走ってくる。

「だっこして、だっこして、だっこして…」

と、抑揚のない声で同じ言葉を繰り返しながら。

「おい、何か変じゃないか?」

友人がそう言ったときには、俺も気が付いていた。 近づいてくる女の大きさが、全然変わらない。 周りを歩いている人たちを追い越して確かに近づいてきているのに、最初に見た大きさのまま。 つまり、近づくにつれて小さくなっているのだ。 体のバランスも変化している。 近付くにつれて、だんだん頭が大きくなる。 手足が短くなる。 長かった髪も、いつのまにかおかっぱ頭になっている。

「あれ、お前の娘じゃないか?」

「あぁ、そうだ」

「どんどん子供に戻ってないか?」

「見ての通りさ。 もうすぐ赤ん坊になるよ」

本当に赤ん坊になった。 大人の膝から下ぐらいの大きさにまで小さくなって、ぷっくりした腕を前に伸ばしたまま、裸足でぴたぴたと走ってくる。

「だっこして、だっこして、だっこして…」

と、甲高い声で繰り返しながら。

友人は軽く助走して、駆け寄ってくる赤ん坊を思いっきり蹴った。 その足が、赤ん坊の体をすり抜けた。 そのまま駆け寄ってくる赤ん坊に、俺はしゃがんで手を差し出した。 赤ん坊がしがみつく。 しがみついて、俺の腕を這い登ろうとする。 その足を掴んで、地面に叩きつけようと腕を振り上げた。

そこで目が覚めた。