テレビからあっという間に消えた雅子さんが、週刊誌の吊広告で笑顔を見せていた。 速さと詳しさというメディアの役割分担を、こんなところで実感するのもなぁ…と、視線を下ろして、男が広げているスポーツ新聞を眺めていた。
電車が少し揺れて、隣にいた女の人が吊り輪を掴んだ。 その手首に、絆創膏が貼ってあった。
確か冬期講習でのことだったと思う。
「先生、私ね、手首切ったことあるよ」
授業の後、中2の女の子がそう言った。 何を話していてそうなったのかは、覚えていない。
「自殺?」
「うん」
「いつ?」
「もうずっと前。 ほら、ここ」
見ると、確かにうっすらと傷痕があった。 その時、なぜ自殺しようとしたのか、理由を聞いたような気もするのだが、覚えていない。
「今はどう? 生きてたほうがいいと思う?」
と訊くと、
「うん」
と答えて笑っていた。
あれからもう10年か。 女の人は、百草園で降りていった。