職場では、昼休みになると、ラジオのニュースが流れる。 それを聴きながら。
「えひめ丸もそうだけど、何で船の名前には『丸』が付くんだ?」
「あ、それ、何かで読んだんだけど… んー… 忘れた」
「どっかの言葉で、船のことをマルって言うとか?」
「なんかそんな感じだった」
「えひめ丸って、引き上げるのかな」
「どうなんだろうね。 引き上げてくれって言ってるみたいだけど」
「引き上げてどうするんだろうね」
「ん?」
「船を引き上げてくれってのは、遺体を引き上げてくれってことだろ?」
「まあそうだろ。 葬式でもするんじゃないの」
「それって、要するに、焼くために引き上げるってことだろ。 すげー無駄じゃん」
「そりゃまあそうだけど」
「ほっといて魚の餌にでもした方が、まだ役に立つだろ。 金もかからないし」
「金はけっこうかかるらしいね。 億単位だってよ」
「引き上げるのを止めて、かかる金を遺族に渡したら、遺族はその金で引き上げるかな?」
「またそーゆーことを」
「いや、でも、ちょっと興味あるだろ? どうすると思う?」
「んー…やっぱ引き上げないだろ。 家のローンとかになるんじゃないかな」
「そうだよな。 海の底で安らかに眠ってもらうとか言い出してさ」
「それを見た助かった方の親は、この子も死んでくれたらってどっかで思うんだろうな」
「そうそう。 とりあえず、大金を貰った遺族とは仲が悪くなりそうだよな」
「しかしお前、デリカシーの欠片も無いな」
「デリカシーか?」
「デリカシーだよ。 女の子の前でそーゆーこと言うと、もてないよ」
「もてないかな?」
「駄目だよ。 そんなことじゃ主夫に貰ってくれ手がないよ」
「あ、じゃあ今の無し」
「遅いよ」
船(=遺体?)を引き上げてもらったところで、子供が生き返るわけじゃない。 それはもちろん遺族だって判り切ったことだろう。 遺族は、たぶん気持ちの区切りをつけたいんだろうと思う。 とは言っても、子供がいない俺には、子供を無くした親の気持ちは想像の彼方だけど。
ところで、遺族が要求する補償(金額)ってのは、どの辺りが妥当なところなのかね。 過失100%の交通事故に要求できる金額じゃないかと思うんだけど。 日本国内で起きたことならともかく、ハワイでだからね。 相手が米軍だってことは、なんでもかんでもやらせる根拠にはならないだろう。