appleをアッポーとは言わない。 waterをワラとは言わない。 言えないのではなく、言わない。 しかし、pingはピンと言っている。 ピングではなくてピン。
「ピングは通りますか?」
「ピンならさっき試したけど、届きましたよ」
なんて、相手に合わせることも無くピン。 言いたくて言っている。
そんな俺にとって、とても微妙なところにいるのがnull。 ナルだ。 だが、ナルとは言えない。 ヌルと言ってしまう。
「あー、確かに、言われてみればナルですよね。 今まで何とも思わなかったけど」
「気付いちゃうと、言いたくなるだろ? ナルって」
「ちょっとなりますね。 言えないですけど」
「何で言えないんだろ?」
「何か恥ずかしいからですかね」
「やっぱり? こう、もう一人の自分に半笑いで見られてるような?」
「ちょっと近いかも」
「そういや、例外の質問してる人は何て言ってた? って、あれは ClassNotFoundException だっけ」
「そうなんですけど、えーと、ヌルですね。 ヌル参照とか言ってましたから」
「そうか。 やっぱ、俺等と同じように、ナルって言いたいけど言えない口かな」
「そうかも知れませんね」
「お互いに言いたいのに言えない状況ってのも滑稽だよね」
「ははは、それは確かに」
「この際だから、こっちから一歩踏み出してみれば?」
「このナルポインターエクセプションなんですけど、とか?」
「そうそう。 いきなりが無理なら、ナとヌの中間っぽい辺りから」
「そっちの方が恥ずかしくないですか?」
「あー… うん、さっきまで半笑いだったもう一人の自分が爆笑してそう」
「ですよね」
「あ、そこをナルって言えちゃうような奴だからナルシストなのか」
「あー、なるほど…って、一瞬納得しそうになりましたよ」
「でも、悪くないだろ?」
「まあ」
「あ、何か俺って今すごい得意気な顔してなかった?」
「あはは、上手いこと言ってやったみたいな?」
「うわっ、むしろこっちの方が恥ずかしい」
などと地味に落ち込んだりしつつ、周囲の人にも訊いてみたところ、全員がヌルだった。 ヌル派とナル派って、世間的にはどっちが多いんだろう。 9対1ぐらいでヌルが優勢じゃないかと想像するのだが。