メダカ獲り
広島から持ってきた金魚を、ベランダのダンボールの上に置いていた父。 「そんな所に置いておくと、そのうち崩れるよ。 雨が降ったらその日のうちにでも」 という俺の注意にも、全く聞く耳を持たない。 何の根拠も無く 「大丈夫」 と言っていた。
んが、実際に雨が降って、ダンボールはやはり崩れ、水槽は滑り落ちて割れてしまった。 そして、中にいた金魚の半数とメダカの全てが死んでしまった。 割れてから暫く経って気付いたようで、むしろ金魚の半数が生きていたことの方が奇跡的という状況だったらしい。 流石に反省したのか、新しく買ってきた水槽は、今度は丈夫なラックの上に置いてあった。
そんなことがあった数日後の朝。
「今日は天気がいいけぇ、メダカを獲ってくる」
「どこで?」
「前の川で」
「浅川? あそこにいるのは、メダカじゃないと思うよ」
「ハヤの子かの? でもええよ、メダカに似とりゃ」
「獲ってきたの、水槽に入れるの?」
「ほうよ。 だいぶ寂しくなったけーの」
「ふーん。 まあ、気を付けて」
そして夕方。
「どうだった?」
「駄目だった」
「やっぱり」
「もう寒くなったけぇ、獲れるかと思ったけど、まだメダカの方が速かった」
近所のホームセンターでわざわざ網を買って行ったのに、一匹も獲れなかったらしい。 ちなみにメダカの餌は購入済み。
そして今日。
「今日こそメダカを獲ってくる」
「まだ諦めてなかったの?」
「ほうよ。 せっかく網まで買ったんじゃけぇ」
「ふーん。 まあ、気を付けて」
と送り出したものの、ちょっと気になって、様子を見に出かけてみた。 行くなら多分あの辺りだろうと当たりをつけたところが正解。 釣り用の長靴に履き替えた父が、網を持って、浅いところでごそごそやっていた。
「どう?」
「獲った獲った、見てみぃ」
と、小型のペットボトルを差し出す父。
「けっこう獲ったね。 これはメダカ… じゃないよね。 あと、泥鰌?」
「砂吹きもおるで」
「これ、金魚と一緒に入れていいの?」
「小さいから大丈夫」
「ふーん… 餌はメダカのでいいの?」
「大丈夫」
「ふーん」
まあ、大丈夫なんだろう。 この日の戦果は、メダカ(のような小魚)3匹、泥鰌2匹、砂吹き(これはたぶん地方名でゴリの仲間だと思われる)2匹。 そして得意気な父。
今日も良い天気。

川原でメダカを狙う父。