久しぶりに自社に戻ったら、 階段のシール が進化していた。 最上段の水平面にも、上り下りのシールが貼ってあったのだ。 ようやく、あの位置では下る人から見えないと気付いたのだな。 自分で気付いたのではなくて、誰かに指摘されて気付かされたのかもしれないが、まあどっちでもいいか。 階段の水平面に貼られたシールは、早くも傷んでいた。
ジュースを飲もうと思ったが小銭が無い。 千円札はあるのだが、汗でふやけて、札の口に入らない。 しょうがない、誰かに小銭と替えてもらうか。 しかし使えない千円、それも汗でふやけたのを替えてもらうのに、女の子は良くないよな。 と、そんな気を使わなくてもよさそうな、むさ苦しいの(すまん)に声を掛ける。
「千円崩せない?」
「小銭ですか?」
「うん。 ジュース買おうと思ってね」
「あれ? あそこの自販機、千円札使えますよ?」
「そうなんだけど、俺の千円札は駄目なんだよ」
「そうなんですか?」
「うん、汗でふやけちゃってさ。 入らないんだよね」
「はあ、そうなんですか。 あ、すいません、無いです」
「そっか。 じゃあ…」
と、辺りを見回していると、わざわざ避けた女の子から声が。
「小銭なら、私、持ってますよ?」
「あ、じゃあ替えてくれる? 汗でふやけてるんだけど」
「いいですよ。 はい、千円。 五百円玉が混ざってるけどいいですよね?」
「全然大丈夫。 ありがとう」
結果として、声を掛けるのを避けた女の子に替えてもらうことになった。 小銭を手に自販機に向かう俺の背中を、その子の声が追いかけてくる。
「うわ、ほんとに湿ってるよ、この千円札」
「そうなんですか?」
「ほら、これ」
「あ、ほんとだ」
やめてくれ…
暑いからと言ってジュースばかり飲むのも不健康だよな。 麦茶でも買ってくるか。 あ、そういえば麦茶の古いのがあったよな。 と、戸棚の奥から探し出した麦茶は、賞味期限を3年も過ぎていた。 まあ麦茶だし、未開封だし、飲めないことも無いだろう。 そう思って飲んでみたのだが、やっぱり不味かった。 液体なのに粉っぽい感じ。 無理すれば飲めないことも無いのだが、無理する必要も無いか。 勿体無いけど廃棄。
炊き立てのご飯にふりかけを掛けて、頂きます。 と、口に入れて、思わず吐き出した。 ふりかけと間違えて薬味をかけていた。 素麺用の、山葵がぴりりと効いたやつ。 ふりかけと同じ形の瓶で、しかも隣に並んでいたから、間違えたのか。 一口だって食えないのに、ご飯の上にはまだたっぷりの山葵。 炊き立ての立ち上る湯気で張り付いて、今更吹いても吹き飛ばせない。 ということで、このくそ暑いのにお茶漬け。