叶姉妹の妹の方が、露出度を上げている。 姉がプロデューサー役なのだと、朝のテレビで誰かが言っていた。
叶姉は、妹に対して、本人は決して認めないだろうが、焦りと妬みと敗北感を感じている。 憎しみと言ってもいい。 昔からずっと抱いていたのだが、これまでは、努力して自分を磨くことで何とか克服してきた。 しかし、それももう限界に近い。 今や明らかに自分は下り坂だ。 という思いが、密かな憎しみが、あんな下品なゴージャスに妹を仕立て上げるのだ。 そして、それで注目を集める妹の姿に、また更なる憎しみを溜め込んでいくのだ。
と、どんどん嫌なほうに想像して、一人で納得。
会社で晩飯。
「あーもー帰っちゃおうかな」
「そう思うなら、さっさと帰れよ」
「明日できることは今日しない。 だっけ?」
「そうそう。 基本だよ」
「でもなぁー、今帰ると、明日もっと忙しくなるんだよなぁ」
「そうとも限らないだろ」
「なんで?」
「今日の帰りに、交通事故かなんかで死ぬかもしれないだろ」
「なんだよ、それ」
「後回しにした嫌な事を、やらずに済んでよかったじゃん。 死に得。 ラッキー」
「それ、ラッキーか?」
「お前、帰りに事故で死ぬなんて、考えたことも無いだろ?」
「うん」
「甘いね」
「お前、誰かに後ろから刺されるなんて、考えたこと無いだろ?」
「刺されるか」
「考えた方がいいよ」
実は、よく考える。 例えば家に帰るとき。
ちょうど空き巣狙いが入っているところに俺が帰ってくる。 階段を上る足音に焦る泥棒。 窓から逃げるか? しかし部屋は3階だ。 と、台所に出しっぱなしの包丁に目が止まる。 とりあえず物陰に隠れて、隙を見て逃げよう。 もしも見つかったときは、この包丁で…
なんて想像すると、自分ちのドアを開けることさえスリリング。 誰かが、このドアの向こうで、包丁を握り締めたままじっとりと汗ばんでいるのだ。 鍵を差し込む音に、ごくりと唾を飲み込んでいるのだ。
窓に蟷螂。 明日は久しぶりに浜松町。