「台風が接近中なので、家が遠い人は早く帰るように」 というお達しが出たのが3時ぐらいだったかな。 で、一緒に仕事をしている人にその旨伝えて、しかし俺は事務処理のために、家ではなくて自分の会社へ。 駅を出てから会社まで10分ぐらい歩かなきゃいけないのだが、歩いている間は雨も風も大したことが無かったのは、日頃の行いがいいからだろう。
会社に戻るのに、久しぶりに乗った中央線。 中野を過ぎた辺りだったかな。 父娘らしい二人が俺の前に立った。 父親は、全体に小太りで、頭がすっかり薄くなっていて、けっこう年に見えた。 娘は中学生ぐらいだろうか。 この年頃の娘ってのは、父親とは距離をとりたがるもの、それが小太りの薄ら禿ではなおさらだと思うのだが、この子はどうも父親が大好きらしい。 目の前にある吊り輪ではなく、吊り輪を掴む父親の袖口を握って、凄く嬉しそうに笑いながら、学校で何があったとか話していた。
まあ微笑ましい姿なのだが、ちょっと気になったのが、娘が時々口にするお姉ちゃんのこと。 「お姉ちゃんは、怒られることを凄く恐れていると思うの」 と。 相手は先生だったり先輩だったりお母さんだったりと色々だが、とにかく怒られる(叱られる?)ことを恐れているのだと。
お父さん大好きなこの子だから、わざわざそんなことを言うのは、 「自分はおねえちゃんと違っておどおどせずに何でもやる」 というようなことのアピールなんだろう。 お姉ちゃんのほうが可愛がられているような気がして、自分の方を向いて貰うために一生懸命なのかもしれない。 まあ、それはそれでいい。 自分をアピールするのにライバルを引き合いに出すのは、誰だってやることだろうし別に構わないと思う。 だが、俺としては、どうしてお姉ちゃんがそうなったのかについても、触れて欲しかったな。 お父さんの口から、 「お姉ちゃんがそうなったのは、お前が生まれたからだよ」 なんて言ってくれるといい感じなんだけど。 いや、 「生まれてしまった」 の方がいいか。
父親は、ただニコニコして話を聞いていたんだけど、内心はどんな想いだったんだろう。 意外に台風だったりするのかな。