2016 03 27

ファンタスティック

府中市美術館は、近いし、安いし、その割に混んで無いし、割と気軽に出かけられるのが良いところなのだが、肝心の企画展が今一つ俺の琴線に触れ無いのが残念なところ。 今やっている ファンタスティック 江戸絵画の夢と空想 は久しぶりに良さそうだったので行ってきた。

展示の前半は掛け軸が多かったのだが、掛け軸ってだいたい幻想的という方向でのファンタスティックだよな。 花鳥風月、題材は色々だけど、きちんと描かれるのは印象に残るものだけで、あとはごっそり省略して見る側に想像させるのが多いし。 いや、日本画ってだいたい想像で描かれたものだし、掛け軸に限定する必要もないのか。

正直な話、 「これはファンタスティックなのか?」 と思うようなものも、チラホラあった。 幕末の、とりあえず西洋の技法で描いてみました的なのとか。 あれらは、当時の日本の画家から見てファンタスティックだったものということなのだろうか。

もちろん、西洋の技法が全部ダメって訳じゃない。 この頃に入ってきたという銅版画の展示品は、結構良い感じだったし。

和洋(風)含めて印象に残ったものを挙げておこう。

虎図 与謝蕪村

虎の絵を見た人がその絵から想像した虎の絵を描き、その虎の絵を見た人がまたその絵から想像した虎の絵を描き… という伝言ゲーム的繰り返しの果てに描かれた一つ。

つまり虎としてはちょっとどうかってモノなのだが、絵としては良い。 絵の中の虎が生き生きしていて、今にも 「おい」 と話しかけてきそう。 展覧会の看板になっていたのも納得の一幅。

四条河原夕涼之図 松本保居

銅版画。 ほぼシルエットの近景と、薄暮を思わせる背景のコントラストが、タイトル通り涼しそう。

松本保居(まつもとやすおき)という人は、幕末の上方に銅版印刷を広めたのだそうだが、俺は聞いたことがない。 忘れているだけかもしれないが。

蛙の大名行列図 河鍋暁斎

これも展覧会の看板になっている作品。 タイトル通り蛙が大名行列をしている絵。 羽織を着、腰に刀を差し、殿様蛙が乗った柿の駕籠を担ぐ蛙達は、擬人化されているはずなのに、蛙としてもリアルだったりする。

これを描いてるとき、きっと楽しかったんだろうな。

2周目に蛙の大名行列を眺めているとき、70歳ぐらいのお婆さんに話しかけられた。

「この頃目が悪くなって良く見えないんですけど、あの赤いのが駕籠ですか?」

「そうですね。 柿をくり抜いて駕籠にしてるみたいですよ」

「そうなんですか。 ありがとうございます。 言われてみると確かに柿ですね」

「中に小さい殿様も乗ってますよ」

「え? あ、本当だ。 よく見るといますね。 ふふふ」

楽しそうで何よりだ。 暁斎先生も喜んでいるだろう。

ところで、この美術館ではほとんどの展示品がガラスケースの中に入った状態なのだが、そのガラスと展示品との距離が50cmぐらいあるんだよな。 この距離のせいで、さっきのお婆さんみたいに見難い思いをしている人も多いのだろう。 客層は年寄りが多いだろうし、もう少し距離を縮めた方がいいのではないか。

会場から出たところにスタンプコーナーがあって、背景が印刷してある葉書とスタンプが何種類かあり、好きな組み合わせで押せるようになっている。 これが結構な人気で、会場から出てきた人のほとんどが一つ二つ押して帰るのだが、そこにさっきのお婆さんがきて全種コンプリートしてた。

年寄りにはありがちなことだが、スタンプをぎゅっと押さないと不安なんだろう。 見るからに力を入れて、体重をかけて、それを端から端まで。 そしてコンプリート。 出来上がった葉書を束ね、達成感溢れる顔で小さく頷いて歩き出そうとしたところで、その様をなんとなく眺めていた俺と目があった。

「あら? さっきはありがとうございます。 スタンプいっぱい押しちゃいました」

「楽しそうですね」

「ええ、とっても。 ふふふ」

いやもう本当に楽しそうで何よりだ。

府中の森公園の1

美術館のある府中の森公園の一角。 この時期に赤い葉は目立つ。

府中の森公園の2

同じく公園の一角。 こちらは白一色。 たぶん雪柳。

桜並木

桜並木の桜は、ようやく咲き始めたところ。