2013 06 27

ジャーナリスト

珊瑚礁に自分で瑕を付けて、それをマナーの低下として報道する。 そんな朝日の伝統は今もきっちり受け継がれているんだろう。 まあ、それがメディアってもんで、朝日に限ったことじゃないんだけどさ。 一部ではプチ朝日とも言われている毎日新聞の記事から。

パソコンの遠隔操作事件で、警視庁は24日、片山祐輔被告(31)=ハイジャック防止法違反の罪などで起訴=が弁護士らに犯行声明を送るために使ったとされるメールのサーバーに侵入したとして、朝日新聞社と共同通信社の複数の記者を不正アクセス禁止法違反容疑で書類送検する方針を固めた。

捜査関係者によると、記者は昨年10~11月ごろ、片山被告が使っていたとみられるIDやパスワードを入力して、メールのサーバーに複数回にわたり、無断でアクセスしたとしている。 パスワードなどは犯行声明の内容をヒントにアクセスしたという。

両社の記者はサーバーに侵入した後、取材目的でメールの内容や送受信記録などを確認していたとみられる。

これ、時事通信はやり過ぎだったと反省のポーズをとってるんだけど、朝日は開き直ってるんだよね。 以下、朝日新聞が出した本件の説明。

当社は、顧問弁護士とともに詳細に事実関係を調べ、検討した結果、当該アクセスについて 「不正アクセス禁止違反の犯罪は成立しないことが明らか」 と判断しています。

以下、その理由をご説明します。

  1. 「不正アクセス禁止法」 違反罪の構成要件に該当しない

    「当該識別符号の利用権者」 がアクセスを承諾していた

    「不正アクセス行為」 の構成要件を定めた不正アクセス禁止法第2条4項は 「当該アクセス管理者又は当該識別符号に係る利用権者の承諾を得てするものを除く」 と明記しています。

    当該メールアカウントを使用した犯行声明メールは昨年10月9日、報道機関や弁護士に送信されました。 その中に当該メールアカウントの識別符号(パスワード、以下:当該識別符号)が記載されていました。

    この犯行声明メールは 「【遠隔操作事件】私が真犯人です」 と題し、 「このメールを警察に持っていって照会してもらえば、私が本物の犯人であることの証明になるはずです」 「ある程度のタイミングで誰かにこの告白を送って、捕まった人たちを助けるつもりでした」 「これを明るみにしてくれそうな人なら誰でも良かった」 などと記したうえで、同メールの送信者が関与したという遠隔操作ウイルスを使った事件の内容を記しています。

    以上のことから、当該メールアカウントの利用権者(「真犯人」を名乗る犯行声明メールの送信者)が、犯行声明メールの送付先の弁護士や報道機関を通じて同メールの内容が公表されることを望んでいたのは明白です。

    さらに、犯行声明メールの中で当該識別符号を公表し、それが使われて当該メールアカウントにアクセスされ、自分が真犯人であることが証明されることによって、遠隔操作事件で警察から犯人と誤認された人たちの容疑が晴れることを明確に求めていました。

    このように、利用権者は、当該識別符号を使って当該メールアカウントにアクセスすることを誰に対しても広く承諾していたことが明らかです。 当社記者もそう認識しており、 「不正アクセスの故意」 は全くありませんでした。

    従って、当該アクセスは、不正アクセス行為には該当しません。

  2. 報道機関として必要な取材であり、正当な業務行為

    刑法第35条は 「法令または正当な業務による行為は、罰しない」 と定めています。 遠隔操作事件の捜査では、無実の人の誤認逮捕が相次ぎ、真犯人の特定が社会の重要な関心事となっていました。 当該アクセスは、 「真犯人」 を名乗る人物が送信した犯行声明メールが実際に当該メールアカウントから送信されたものであるかどうか(第三者が犯人になりすまして送った形跡はないか)などを確認するために行った、正当な取材行為です。

    報道機関の記者が正当な取材として行った行為は、仮に犯罪の構成要件に該当するとしても、正当な業務行為として違法性を欠き、処罰されないことは判例でも明確に示されています(いわゆる『西山記者事件』での最高裁1978年5月31日決定をご参照下さい)。 まして、当該アクセスは窃盗など不正な手段で当該識別符号を入手したものでも全くなく、正当な業務行為に該当することは明らかです。

この当社の見解については、当社顧問弁護士名の「意見書」としてまとめ、警視庁刑事部にも提出しています。 (朝日新聞社広報部)

説明には書かれていないんだけど、犯人がメディアに送ってきたメールで公開していたのは excite のアカウントで、記者がアクセスしたのは yahoo のアカウント。 管理が甘いせいでどちらのアカウントも同じになっていたのを、記者が勝手に 「ひょっとしたら同じかも」 と試してみたら行けたってのが実際のところだろう。

一つのアカウント情報を公開することは、それと同じID/passwordを設定している全てへのアクセスを許可することにはならない。 管理者が甘くて不正アクセスを誘発するような管理体制になっていたとしても、だからといってアクセスしてしまえば、それはやっぱり不正アクセスだ。

朝日新聞が 不正アクセス行為には該当しません と言いながらもそこで止めずに後段を続けるのは、これが不正アクセスではないということが強引だと判っているからでは無いか。 本当に不正アクセスではないと自信があるなら、この行為が取材活動として正当化されるなんて言う必要は無いだろう。 問題のポイントは、犯人(?)が開示していたのとは違うメールサービスのアカウントにアクセスしたことなのに、それについて触れないのも、触れれば旗色が悪くなると判っているからじゃないのかね。

ここで正当性の根拠となる判例として挙げられている 西山記者事件 だが、Wikipedia によると経緯は以下の通り。

第3次佐藤内閣当時、米リチャード・ニクソン政権との沖縄返還協定に際し、公式発表では米国が支払うことになっていた地権者に対する土地原状回復費400万ドルを、実際には日本政府が肩代わりして米国に支払うという密約をしているとの情報をつかみ、毎日新聞社政治部の西山が日本社会党議員に漏洩した。

政府は密約を否定。 東京地方検察庁特別捜査部は、西山が情報目当てに既婚の外務省事務官に近づき酒を飲ませ泥酔させた上で性交渉を結んだとして、情報源の事務官を国家公務員法(機密漏洩の罪)、西山を国家公務員法(教唆の罪)で逮捕した。 これにより、報道の自由を盾に取材活動の正当性を主張していた毎日新聞は、かえって世論から一斉に倫理的非難を浴びることになった。

裁判においても、起訴理由は「国家機密の漏洩行為」であるため、審理は当然にその手段である機密資料の入手方法に終始し、密約の真相究明は検察側からは行われなかった。 西山が逮捕され、社会的に注目される中、密約自体の追及は完全に色褪せてしまった。 また、取材で得た情報を自社の報道媒体で明白に報道する前に一国会議員に流して国会における政府追及材料とさせたり、ニュースソースの秘匿が不完全だったために情報提供者の逮捕を招いたことも、ジャーナリズムの上で問題となった。

事件は最高裁まで争われ、その結果がこれ。

  1. 国家公務員法109条12号、100条1項にいう秘密とは、非公知の事実であつて、実質的にもそれを秘密として保護するに値するものをいい、その判定は、司法判断に服する。
  2. 昭和46年5月28日に愛知外務大臣とマイヤー駐日米国大使との間でされた、いわゆる沖縄返還協定に関する会談の概要が記載された本件1034号電信文案は、国家公務員法109条12号、100条1項にいう秘密にあたる。
  3. 本件対米請求権問題の財源についてのいわゆる密約は、政府がこれによつて憲法秩序に抵触するとまでいえるような行動をしたものではなく、違法秘密ではない。
  4. 国家公務員法111条にいう同法109条12号、100条1項所定の行為の 「そそのかし」 とは、右109条12号、100条1項所定の秘密漏示行為を実行させる目的をもつて、公務員に対し、その行為を実行する決意を新たに生じさせるに足りる慫慂行為をすることを意味する。
  5. 外務省担当記者であつた被告人が、外務審議官に配付又は回付される文書の授受及び保管の職務を担当していた女性外務事務官に対し、 「取材に困つている、助けると思つて安川審議官のところに来る書類を見せてくれ。君や外務省には絶対迷惑をかけない。特に沖縄関係の秘密文書を頼む。」 という趣旨の依頼をし、さらに、別の機会に、同女に対し 「5月28日愛知外務大臣とマイヤー大使とが請求権問題で会談するので、その関係書類を持ち出してもらいたい。」 旨申し向けた行為は、国家公務員法111条、109条12号、100条1項の 「そそのかし」 罪の構成要件にあたる。
  6. 報道機関が公務員に対し秘密を漏示するようにそそのかしたからといつて、直ちに当該行為の違法性が推定されるものではなく、それが真に報道の目的からでたものであり、その手段・方法が法秩序全体の精神に照らし相当なものとして社会観念上是認されるものである限りは、実質的に違法性を欠き正当な業務行為である。
  7. 当初から秘密文書を入手するための手段として利用する意図で女性の公務員と肉体関係を持ち、同女が右関係のため被告人の依頼を拒み難い心理状態に陥つたことに乗じて秘密文書を持ち出させたなど取材対象者の人格を著しく蹂躪した本件取材行為(判文参照)は、正当な取材活動の範囲を逸脱するものである。

原文は全て数字が漢数字で書かれていたが、読み難いので全て数字に変更している。

朝日新聞が援用するのは6番目だろう。 でもこれ、 その手段・方法が法秩序全体の精神に照らし相当なものとして社会観念上是認されるものである限り と、取材ならどんな手段でも許されるって訳じゃないと制限されてるんだよね。 で、続く7番目で、西山事件のような準強姦からの関係継続は駄目だと否定されている。

朝日新聞がわざわざ説明をしているのはその行為が非難されたことへの対応であって、非難されたのはその行為が 社会観念上是認されるもの では無かったから。 そもそも書類送検されたのが、その行為が違法である可能性が高いと判断されたから。 つまり現状は、法的には黒に近い灰色で、社会観念上は黒。 駄目じゃん。

しかし、自分らの行為の正当化のために準強姦という手段を採った件を持ち出すとか、いつかの大臣の 産む機械 よりも遥かに女性を貶めていると思うのだが、女性団体はどうするんだろう。 まあ、どうもしないんだろうな。 アグネスが中国の人権侵害には知らん顔なのと同じで。