インスタントの不味いコーヒーと、先週買ったアスパラガス(ビスケット)。 仕事に飽きてポリポリ食ってたら、隣の庶務さんも、同じように仕事に飽きていたらしい。
「それ、まだ残ってたの?」
「アスパラ?」
「そう。 先週も見たよ、それ」
「そりゃ先週買ったから」
「ずいぶんゆっくりじゃない?」
「向かいの団地があるでしょ? ほら、そこの窓から見える」
「え? あ、あそこ?」
「そこの最上階の、右から4軒目。 ちょうどブラインドの隙間から見えるところ」
「どうかしたの?」
「あそこに、ずっと病気で寝たきりの女の子がいるんですよ」
「そうなの?」
「もうずっと、ベッドから窓の外をみるだけの生活でね」
「何で知ってるの? そんなこと」
「まあ、いろいろあって」
「ふーん。 可哀想だね」
「で、ちょうどあのブラインドの隙間から、俺の席が見えるらしくて」
「ここが?」
「そう。 それで、その子、窓からいつもこっちを見ながらね」
「うん」
「お母さんに言うんだって。 『あのアスパラの最後の1本が食べられたら、私も死ぬの』って」
「……」
「だから、なかなか全部食べられなくて」
「はぁ?」
「最後の1本を食べるときは、袋にリアルなアスパラの絵を描いておかないと」
「ちょっとぉ、本気で寝たきりの子がいるって信じかけたじゃないよぉ!」
「あっ、判った? 嘘だって」
「むかつくっ」
むかつくと言いながらへらへら笑っていた。 やる気は限りなく0に近い。