2000 03 28

こんな感じ。

店に来た男は、まず写真のある部屋に入る。 特に指名が無い場合は、そこにある写真から、どの子にするかを選ぶ。

女の子の部屋は、その部屋から少し離れた奥のほうにあって、私たちはその中で本を読んだりしゃべったりして、お呼びが掛かるのを待っている。 そこからでは客が来たことが判らないから、お呼びが掛かる時はいつも 「突然」 だ。 こう言うと、嫌がっているように聞こえるかもしれない。 声が掛かることでお金が入ってくるのだから、その意味ではありがたいのだけれど、呼ばれたくないという気持ちも、ちょっと、ある。 漠然とした不安が、呼ばれることではっきりとした形をもつような、そんな感覚。

ちょっと用事があったので外出して、戻ってきたら、ちょうど客が入ってきたところだった。 「なんだ、今日は休みなのか」 と、客。 いつも指名している子が、今日は休みだったらしい。 と言うことは、あの子の客か。 「たまには違う子も、新鮮だと思いますよ」 店員が愛想よく答えている。

目当ての子がいなかったらと言って帰る客は、ほとんどいないらしい。 実際、たまには違う子とするのも新鮮なんだろう。 そう言えば、客が女の子を選ぶところを、これまでに見たことが無い。 恥ずかしそうにささっと見て決めるのだろうか。 それとも、プロフィールまでじっくり読んだりするのだろうか。 ちょっと気になって、ドアの陰から中を覗いてみた。

30代後半ぐらいの男。 少しくたびれたスーツ。 スーツに不似合いな大きなバッグ。 部屋の壁に並ぶ、精一杯の笑顔の私たちの写真を一通り眺めて、 「どれでもいいか。 じゃあ、これで」 と、指差したのは、私の写真だった。

そう。 私は、どれでもいい中の 「これ」 だ。

電車に乗っていて退屈してくると、そこらにいた人を主人公に、勝手に物語を想像したりする。 今日も、そうだった。 朝からもうずいぶんと疲れた顔の女の人が、その表情とは対照的な派手な服を着ていて、その人を見ているうちに頭に浮かんできたのが、こんな感じ。

雨。 強風。 深夜2時過ぎに停電2回。