2015 06 28

小さい樽

渋谷 Bunkamura ザ・ミュージアムでやっている ボッティチェリとルネサンス を見てきた。 ちなみに今日が最終日。

このところの俺にとっては乗り換えの場所でしかなかった渋谷。 駅から外に出たのがいつ以来なのか、ちょっと思い出せない。 10年ぐらい前かもしれない。 そんな久しぶりの渋谷は、遠い記憶の中の風景とはかなり違っていたが、人が多いのだけは変わらないな。

展示は、絵画は15世紀が中心で、その他に13〜14世紀の銀行・金融関係の文物など。

絵画は、展覧会のタイトル通りにボッティチェリがメインなのだが、同時代の他の画家の作品も結構多い。 多いのだが、どれも大体同じような主題を同じような技法で描いていて、どれが誰の作品なのか絵を見ただけでは区別がつけられない。 主題は当時は宗教一択だからしょうがないが、巧拙具合も似たようなものってどうなんだろう。

俺の中でのメインはボッティチェリのビーナスだったのだが、これも微妙な感じ。 しかし彼の他の作品でも、他の画家の作品でも、女性の表情には通底するものがあるような気がするし、これらはそういう様式なのかもしれないな。 浮世絵の美人画とまではいかなくても、写実なんて大して追求してないのかも。 しかし、ここで改めてグエルチーノの上手さを感じることになるとは思わなかったよ。

この日、印象に残ったものは二つあるのだが、そのどちらもボッティチェリではない。 というか絵画ですらない。

一つは鍵。 イタリアの工房で作られたデコラティブな鉄の鍵。 3つぐらいあったのだが、その一つがヘルレイザーのパズルボックスに似た感じで、何だか判らないが絶対に開けてはいけない扉を開けてしまいそうな雰囲気だった。

もう一つは聖母子像。 アンドレア・デッラ・ロッビア工房製の彩釉テラコッタ。 浮き彫りっぽい焼き物なのだが、それまで微妙な絵を見てきたせいか、聖母の整った顔立ちがすごく綺麗に見える。 同じ感想を持つ人は多いようで、この作品をしばらく見ている間に 「わ、綺麗」 なんて声を何度か聞いた。

しかし印象に残ったのは綺麗だからだけではない。 これ、作品の正面から見ると綺麗なのだが、角度を変えて母子それぞれを顔の正面から見ると、どちらもぞっとするほど歪んで見えるのだ。 作者の悪意を疑ってしまうレベル。 まあ、正面から見るためのものを斜めから見るなって話ではあるが。

そうそう、作品とは関係ないが、bank(銀行)の語源は、この当時の銀行屋が使っていたbancoと呼ばれる机だそうだ。

あと、ボッティチェリは本名ではなくて渾名なんだそうだ。 今日初めて知った。 「小さい樽」 という意味で、兄が樽のようなデブだったからついた渾名と解説にあった。 兄が樽デブでも、だからといってデブではない弟を樽呼ばわりはしないよな。 弟は弟で、ちょいデブ或いは背の低いデブだったんだろう。

それにしてもイタリアって…

幻想耽美

ついでに、同じくbunkamuraのギャラリーも見てきた。 現在、 幻想耽美 - 現在進行形のジャパニーズエロチシズム をやっている。 こちらも今日が最終日。

内容はタイトルから察する通りなのだが、エロの方向性ってのも広いようで狭いんだね。 ネットが普及したおかげで素人の絵を見る機会も増えたのだが、そうした素人と、ここで展示しているプロと、違うのは技術だけなんじゃないかって気がするよ。 年齢、スタイル、状況、属性、その他色々あるだろうが、そういったエロ要素でエロレーダーチャートでも作ってみたら、分布は素人もプロもそう変わらないんじゃないか。 いや、もちろん技術は大事なんだけどさ。

要するにここで新たなエロ要素の発見はなかったってことなのだが、考えてみれば、俺が無駄に幅広くエロ漁りしてきたからそう思うだけって可能性もあるんだよな。 ほとんどの人にとっては発見だらけだったりするのかも。

もちろん、どこかで見たエロ要素だから駄目って訳ではない。 何度でも見たいものは見たい。 それが高い技術で表現されているなら尚の事。 ということで、印象に残った作家を挙げておこう。

森口裕二

古いエロ漫画から生々しさを薄めた感じ。 或いは、浮世絵(春画)を今風に描いた感じ。 表情が妙にエロい。 本人が意識しているのかは判らないが、蛸とか、たぶん葛飾北斎だよな。

山本タカト

こちらも浮世絵っぽさがあるが、もっと硬質で冷たい感じ。 綺麗なのは良いのだが、貧乳の女かと思ったら男だったりすることがあるので油断ができない。

清水真理

胸を割り開かれて小さなジオラマのショウケースにされた人形が、実は生きている人なんだと妄想しながら見るのが良い感じ。 ちょっと荒いのが残念。

恋月姫

大きめの人形二体が美しい。 最初に見たときはちょっと驚いた。 心の中で 「うわっ!」 なんて言ってしまった。 なんか、見てるうちに自分でも人形を作ってみたくなった。

Female times

ギャラリーの隣では女性作家のグループ展をやっていた。 こちらは特に惹かれるものはなかったな。 ウインドウの外から最初に見たときはちょっと気になったのだが、中に入ってちゃんと見ると、興味がするりと萎んでしまった。

出来が悪いのではなくて、単に俺の好みではなかったということ。

bunkamura入口

Bunkamura 入り口に置いてあったポスター。

子供も見る場所に置く事を考えると、幻想耽美の方は半分ぐらいの作品がポスターに使えないんじゃないか。 森口裕二なんか確実にアウト。 子供に見せちゃ駄目って、PTAなら言うだろう。