2016 07 29

雲紋雀とガレ

コロンビアで発掘された古代の遺物、黄金のスペースシャトルは、子供の頃は怪しい某誌の説明を真に受けて 「これは確かに空を飛ぶ何かだ」 なんて思っていたが、この歳になって改めて見ると普通にハゼの一種だ。 航空力学的に優れた形状 なんて学者のコメントが付けられていたりするが、水中の生物はたいてい航空力学的にも理に適った形だし、そりゃそうだろとしか思わない。

雲紋雀

雲紋雀(ウンモンスズメ)

今日、散歩の途中で見つけた雀蛾の一種。 こいつら雀蛾は、飛ぶ姿はハチドリに近いが、こうして止まっているとステルス爆撃機B-2だ。 もしも遥か古代の人がこの姿を象った金製品を作り、それが現代で見つかったら、きっとオーパーツ扱いされるんだろう。 この雲門雀は尾が尖っているが、大透翅(オオスカシバ)などの尾が絵筆のように広がっているのを金で中途半端に再現すると、羽の形状と相まってもうジェットエンジンのノズルにしか見えないだろうし。

航空力学的に非常に優れた形状です。 最新鋭のステルス爆撃機B-2とよく似た形なので、ひょっとするとステルス性も持っていたのかもしれまぜん。 羽の後退角からはマッハ2程度が出せたと考えられ、スピードはB-2を遥かに上回ります。 さらに驚くべきことに、これは二次元ベクターノズルです。 スピードだけではなく運動性でも、現代の最新鋭の戦闘機を上回ると考えられます。

なんて、どこかの、或いはどこにもない学者のコメントがつけられたりするのだ。

ガレ

蛾といえばガレ。 だからという訳では無いが、休暇をとって六本木のサントリー美術館でやっている オルセー美術館特別協力 生誕170周年 エミール・ガレ に行ってきた。

ガレが活躍したのは1900年前後。 当時のヨーロッパは第1次世界大戦に向かう大きな流れの中で、ガレ自身も志願して戦争に参加したらしい。

展示の最初の方にはこうした指向性を反映した作品が並べてあったのだが、俺には 「ふーん」 という程度の感想しか湧いてこない。 為人や背景を理解するには重要なポイントなのだろうが、陶磁器やガラスでフランスを主張されても、ねえ。

見るべきは第2部以降。 典型的なガレ風とでもいうか、昆虫や植物をモチーフにした作品がたくさん並んでいて、なかなか見応えがあった。 絵画同様に陶磁器やガラス作品も、やっぱり写真やテレビで見るのと実物を直接見るのとでは、印象がかなり違う。

作品はいい雰囲気なのだが、しかしそこに描かれている昆虫は微妙だったな。 解説には、ガレの観察眼や写実性を褒め称える文章が書かれているのだが、昆虫好きの目には逆効果。 「お前らが虫に興味が無くてほとんど知らないから、ちょっとそれっぽいだけで本物そっくりとか言うんだろ。 そんな言うほど凄くないじゃん」 と、妙な対抗意識みたいなものが湧いてくる始末。

その点、植物をモチーフにしたものは安心(?)して見れる。 こちらも勿論ちょっとした違いがあったりするのだが、あまり気にならないのは、植物をモチーフにしたデザインに接し慣れているせいだろうか。

そういった俺の中のバイアスを除外しても、昆虫よりも植物の方に見るべき作品が多いという印象。 色かな。 赤や青の強い対比、透明のようで透明でない深い色の鮮やかさは、昆虫を用いた作品にはあまり見られなかったと思う。

具象的な模様など無い単色の濃い赤や青の作品も綺麗だった。 光の角度を変えて見られるようになっていれば更に良かったと思うのだが、美術館にそこまで求めるのは難しいのかな。

良し悪しは別として、印象に残った作品を挙げておこう。

氷の花

赤いガラスの上に迸るような白が乗せてあるのだが、最初はその白いのが手に見えた。 エヴァンゲリオンの最後の方で見た人類補完計画の発動みたいで、これは凄いと思いながらよく見たら花だった。

赤は、最初は赤に見えたのだが、しばらく見ているとオレンジ色に見えてきた。 実際、オレンジに近いんだろう。 印象が落ち着くと色も変わって見えるってのは、知識として知ってはいるが、体感できる機会ってあんまり無いよな。 その点でも印象に残っている。

日本の楓の葉

かっこいい。

まあ 「日本の」 とついてる時点で写実性はお察しだが。 少なくとも俺は、こんな楓の葉を見たことは無い。 日本の絵師が虎を描くように、誰かが描いたのを参考に想像で描いてみたのだろうか。

ガレの時代は、明治維新の頃の日本が外貨稼ぎのために工芸品を輸出していた頃。 ガレもジャポニズムに影響されて、楓の葉のようなデッサンにとどまらず、実際に日本風味の作品をいくつか作っているのだが、所詮はヨーロッパ目線の日本風。 日本人の目にはむしろ中東風だったりする。

そんな中に一つ、明らかに次元の違う日本風味のものがあった。 「へー、こんなのも作れるんだ」 と思いながら解説を見たら、ガレの作品ではなくて、ガレがコレクションしていた宮川香山の作品だったよ。