何だか微妙に忙しい毎日。 一つ一つはちょっとしたことなのだが、それらが次々とやってきて、なかなか落ち着かないのだ。
「その報告書って、ひょっとしてまた『ごめんなさい』なの?」
「そうです。 私の謝りっぷりを見せてやりますよ」
「あー、何だっけ? スーパー土下座タイム?」
「そう、それです」
「もうずっと土下座タイムなんだから、この際もう一ランク上を見せるのはどう? 土下寝とかさ」
「ずっとって言わないでください。 ドゲネって何ですか?」
「見た目はうつ伏せだね」
「…それ、謝ってる気持ちが通じますかね?」
「それは通じるだろ。 何で土下座で謝る気持ちが通じるのか考えてみなよ」
「何でって… 本来つけないはずの額を地面につけるからですか?」
「だったら、接地面積が大きい程良いって判断になるだろ」
「えー、でも今は、説明されて、考えて、それでも納得できるようなできないような感じなんですけど」
「それはきっと言葉の響きだね。 五体投地と言えば納得できるんじゃない?」
「ああ、なるほど… って、しまった、一瞬納得しそうでしたよ」
「遠慮せずすればいいのに。 そうそう、ポーズで思い出した。 さっき、昼休みにふと湧いてきた疑問なんだけどさ」
「なんですか?」
「こう、指をちょっとそらし気味に揃えて掌を前に向けて口を覆って『あの人ってコレ?』って訊かれたら、意味通じるよね?」
「通じますね」
「あれの男女逆版って、どんな仕草になるんだろうって。 無いよね?」
「あー… そうですね、無いですね」
「それで、じゃあどんなのが良いか考えてたんだけど、なかなかしっくり来るのが無いんだよ」
「そんなことを考えてたんですか」
「うん。 こっちの仕草は、歌舞伎の女形から来てるんじゃないかと思うんだよ。 だから、ヒントは宝塚にあるんじゃないかと」
「なるほど。 いつも思うんですけど、微妙に本当っぽいところを突いてきますよね」
「なんだよ、本当っぽいって。 宝塚、見たことある?」
「無いです」
「俺も無い。 実は見たくもない。 CMでチラッと見ただけでうんざりだった」
「駄目じゃないですか」
「うん。 はぁ… こうして余計なことばかり考えるのも、もうさ、毎日言ってるけど、この作業がつまんないからだよね」
「ほんと、そうですよね。 どうでもいいことで忙しいのがまた」
「何かこう、非日常的なことが起きれば良いのにね、地震以外で」
「地震は駄目ですか」
「うん、駄目。 ディスプレイから貞子が出てくる方が良い」
「いや、そっちの方が駄目でしょ」
「いやいや、意外に知らない人が多いけど、貞子って仲間由紀恵だからね。 かなり美人だよ?」
「いくら美人でも、あれはちょっと。 死ぬんですよ?」
「あれは、どういう理屈で死ぬんだろうね」
「うーん、ショックじゃないですか?」
「じゃあ、来るって判ってれば問題無いじゃん。 結局のところ、登場の仕方と目付きが悪いだけだからね。 展開が判ってるなら、割と余裕だろ」
「確かに」
「それに、あんな美人が、濡れて張り付いて透ける白い服で来るんだからね。 むしろご褒美だろ」
「あの登場シーンを見てそんなこと考えてたんですか」
「うん。 出てこようとしたところで、頭抑えたりしてさ。 『な! ちょっと、止めてくださいよ!』 なんて言わせたりとか」
「あー、またそんな方向に」
「上半身が出たところで 『胸が無いと出るの楽だよね』 とか」
「むしろ貞子にセクハラを妄想している方が怖いような」
「でもちょっと楽しそうだろ?」
「否定できない自分が嫌です」
「真っ赤になった貞子が引っ込んだと思ったら、画面が 『殺してやる殺してやる…』 って埋まってくんだよ」
「それはそれで、結構怖くないですか?」
「いやそれが 『殺してやる殺してやるこど』 って、途中で咬んでそれっきり」
「あははは、それはちょっと可愛いかも」
ところで、テレビから這い出してくるのは女だが、長い髪の間からギロッと睨むのは男がやってるんだそうだ。 監督が女優に、睫毛を抜いて撮影したいと頼んだのだが、女優は拒否。 それで、その場にいた助監督が代役として、睫毛を抜いて撮影に当ったとのこと。 家に帰ってから、ふと気になって調べて判った。 あの程度の短いシーンなら、わざわざ睫毛を抜かなくても、CGでどうにでもなるようなものだと思うが、それじゃ駄目なんだろうか。