高校生の頃、夢の中でよく同じ街に行った。 行ったというのは、正確じゃないな。 夢の中の俺は、その街で暮らしていたのだ。 現実の世界の、それまで暮らしたどの街にも少し似ている、どの街とも少し違う、海沿いの街。 目が覚めたとき、その夢の街での生活がとても鮮明で、 「いったいどっちが本当の現実なのか?」 と考えてしまうことがよくあった。 どっちが本当の現実かなんて、何の意味もないのだが。
そのころ見た夢で、目が覚めてからも割と鮮明なのは、いつも昼の場面だった。 それはやはり、当時の俺の生活を反映していたのだろうと思う。 この頃は夜の場面の夢を見ることが多い。 数日前に見たのも、夜の夢だった。
そこそこに賑やかな居酒屋で、二人で呑んでいた。 俺は、いつものように水割り。 グラスを持ち上げて一口飲んだとき、女が言った。
「私、グラスを持つときに小指を立てる人って、好きじゃない」
下らないことだと思いながらも、 「あぁ、気になるのか。 じゃあ外すよ」 と、小指を外した。
俺の左手の小指は、実は義指だ。 曲げることこそできないが、本物そっくりに出来ている。 付け根の部分が指輪風に隠れるので、ぱっと見は区別が付かない。
その義指を外して、テーブルに立てて置いた。 テーブルから小指が生えてるように見えた。
「よくできてるだろ? 義指なんだよ」
「あの、ごめんなさい。 知らなかったから」
「なに謝ってんの?」
「だって」
「嫌なものを嫌だと言って何が悪いんだって、言ってたじゃないか」
「……」
「こんなものを見る方が嫌だった?」
「……」
「それとも、俺が可哀想な人だから?」
「そんな…」
そんな風にねちねちやっているあたりから、あやふやになっている。 目が覚めてから、自分の嫌な奴加減がおかしくて、くすくす笑ってた。 これを、気分のいい目覚めと言っていいのだろうか? 左手の小指は、本物がちゃんとついている。 女は、誰だか判らない。 何故こんな夢を見たのかは、もっと判らない。