1998 06 26

俺の答え

ゆとりの教育だそうだ。 授業時間を減らして、創造性を養うような時間をもうける。 選択科目の幅を広げて、生徒の特性を伸ばす。 だいたい2年ごとに、そんなことを言ってるような気がするが、それをまたいっそう押し進めるらしい。

この 「ゆとり」 って言葉が使われだしたのは、俺が中学生の頃だ。 その当時も、学校が荒れるのは詰め込みすぎが原因だとかで、教科の時間数を減らした。 その後、今に至るまで、ちょっとずつ授業時間が減らされてきたわけだ。

で、学校の抱える問題が解決したかっていうと、これが悪くなる一方。 それはつまり、授業時間を減らすという対策が間違ってたってことではないのか。 だいたいなぁ、 ただでさえ馬鹿なガキどもを、これ以上馬鹿にしてどうする? 暇な馬鹿はろくなことをしないんだから、むしろ詰め込め。

さて、前々回のどっちを助けるかってやつだが、生徒も当然のように俺に質問してきた。

「先生は、どっちを助けるの?」

「俺? どっちも助けない。 『ああ、俺じゃなくてよかった』って勝ち誇って高笑いだよ」

「えぇーっ! ひっどーい」

「嘘だよ、嘘。 そんなはず無いじゃないか。 一人の方を助けるよ」

「じゃ、100人見殺しにするの?」

「えっとね、最初は100人の方を助ける振りをする」

「うん」

「で、ぎりぎりになって、やっぱりこっちって、一人の方を助ける。 『お前の方が大切だ』とか言って」

「なんで?」

「演出だよ。 そうやって恩で縛って、俺の言うことをきかせるための。 一人なら確実だろ?」

「先生、それも酷くない?」

「そうかな?」

「そうだよ」

今に至って、俺の答えはAだ。

そろそろ月末なので、フレックスのマイナスを取り戻さなきゃいけない。 ということで、今日は 8:30 に出社した。 エレベーターに乗って、ドアを閉めようとしたら、女の人が走ってきた。 俺はいい人だから、わざわざ開くボタン押して待っててやったのだよ。 そしたら、次々と駆け込んでくる。 開くボタンを押したまま、心の中で採点してた。

4点、5点、5点、5点、3点、7点(10点満点。 5点以下は不可)

つまり、嬉しくなかったのだな。 それだけでも十分なのに、だめ押しとばかりに、はーはー息切らせながらほざきやがった。 「わざわざ走ることもなかったよね、2階なんだから」

呆気にとられる暇もなく2階について、みんな降りてった。 残った俺一人、6階まで上るエレベーターの中で、くすくす笑ってた。 悟ったよ。 いい人やってても、自分にいいことなんて何もない。 いい人はもうやめだ。