1998 07 17

誰かいる

俺の部屋の見えない同居人は最近すっかり大人しく、いるのかいないのか判らなくなってしまったのだが、その筋の人に言わせると、どんな家でも、必ず何人かはいるものらしい。

猫が、天井近くの何も無い一角を、じっと見詰めている。

部屋の中でペットを飼っている人なら、似たような状況を観察することは多いのではないだろうか。 犬や猫には、それが見えているからなのだそうだ。 俺も含めたほとんどの人には全く見えないのだが、ごくたまに、それが見えてしまう人がいる。 これは、友人が、彼女から聞いた話である。

高校生のころのこと。 当時小学生だった妹が、自分の部屋に誰かがいると言い出した。 母親が部屋にいってみても、誰もいない。 もちろん、自分がいってみても、誰もいない。 そんなことが何度かあった。 妹の話では、以前から、時々誰かがきていたらしい。 何をするでもなく、ただ立っていたり、不意にいなくなったりするのだという。 それが最近、いつも数人が部屋にいて、じっと自分のほうを見ているので、恐くて嫌なのだと。

「じゃあお姉ちゃんが、出て行くように言ってあげる」

と、妹の手を引いて部屋にいった。 夢が現実とごっちゃになっただけで、ちょっとしたきっかけで解決するだろうと思ったからだ。

「いま、いる?」

「うん、こっちを見てる」

ちょっと気味悪かったが、一つ深呼吸してから、大声で言った。

「この部屋から出て行けっ!」

もう大丈夫だからと言おうとしたら、妹が半泣きでしがみついてきた。

「どうしたの? ちゃんと言ってやったでしょ」

「お姉ちゃん! みんな恐い顔してこっちにくるっ!」

慌てて部屋を出た。 ドアを閉めたときは鳥肌立っていた。

この話が本当かどうかは、俺には判らない。 が、何でもかんでも見えるってのが、あんまり嬉しいことじゃないのは確かだな。