1998 09 14

好きな言葉は

8時ぐらいに寝て、深夜に起き出して、サッカーを見た。 わざわざ見ただけのことはあった。 中田2得点。 試合は結局 4 - 3 で負けちゃったけど、中田にはこの調子でがんばって欲しいものだ。 しかし、パス回しの速さとか、個々のポジション取りとか、ユベントスの連覇というのは伊達じゃないのだな。

もう顔は忘れてしまったが、名前は確かレイナちゃん。 俺が塾の講師を始めた年に受け持った、中3の可愛い女の子だった。 その日、理科の授業は 「食物連鎖」 だったと思う。 水中の微生物の話をしていたときだった。

「先生、ミジンコってどんなの? 絵で描いて」

と、いつものように突然に、状況を無視して話しかけてきた。

「ミジンコ?  テキストに載ってないか?」

「載ってないよ。 描いてっ!」

「しょーがねぇなぁ。 だいたいこんな感じだよ」

大雑把な絵をに黒板に描いた。

「ふーん…。 先生、ミジンコって堅いの?」

「まぁ一応外骨格だから、水たまりの中じゃ堅い方だろうね」

「どのくらい堅い?」

「いや、堅いって言っても所詮微生物だから、俺たちにかかったら『プチッ』で終わりだよ」

「ふーん、そうなんだぁ」

何か考えてる風だったが、とりあえず大人しくなったので、授業を進めた。 2分後ぐらいだったか、

「先生っ!」

「ん?」

「こっぱみじんこっ!」

「はぁ?」

教室中が大笑いしてる中、 「今考えたの」 と得意そうな顔のレイナちゃんだった。 コッパミジンのミジンコなんだろうが、意味なんかどうでもいい。 このいかにも弱そうな響きに、俺の魂は揺さぶられたのだよ。 「こっぱみじんこ」 の 「じ」 を 「ち」 に点々にすると、もっと弱そうということで意見は一致し、それ以来 「こっぱみぢんこ」 は、俺の好きな言葉なのだ。

レイナちゃんは、今どこで何をしているのだろうか? 笑顔だといいな。