1998 10 07

におい

南平駅から俺の家に至る道は、小さなどぶ川(溝よりは大きい)に沿っている。 川と道の間には、花がたくさん植えてある。 今日は少し雨が降っているせいか、黄色い花がいつもより元気がよくて、いつもよりいい匂いがしていた。 「あ、いい匂いだな」 と、思いっきり空気を吸い込んだとき、その中にどぶ川の臭いが少し混じっているのに気がついた。 そして、どぶ川の臭いに気づいた瞬間、その嫌な臭いが全てになった。

どぶ川は、いつもほとんど変わらずに嫌な匂いを発しているはずなのだが、毎日のことなのであまり意識しなくなっていた。 しかし、花は季節限定だ。 このどぶ川沿いの道では、花の匂いは 「異変」 であり、だからこそ気づいた。 気がついて、匂いに対する感度を上げたため、あまり意識しなくなっていたどぶ川の臭いを再認識してしまった。

そういうことなのだろう。 普段この道を通らない人にとっては、ただ臭いだけかもしれない。

ちょっとね、 「本当はいい人」 とか 「本当は優しい人」 ってのも、そんなもんかもしれないなと思ったのだよ。 「普段無愛想な人がふとしたときに見せる優しさ」 なんてのがね。 この場合は、 「この人の優しさを知っているのは自分だけ」 なんて、ちょっとした独占気分が気持ちいいってのもあるかもしれないな。

匂いについてもう一つ。

会社の、俺の机にある電話の受話器は、何故かいい匂いがする。 女物の香水の匂い。 今週の月曜日からずっとだ。 今日に至って気がついた。 きっと誰かが、毎朝早く来て、このいい匂いをもたらしてくれているのだ。 俺しか使わない電話の受話器に、俺だけに判るように。 俺が気持ちよく仕事できるように。 「お仕事がんばってくださいね」 なんて。 さらに、 「この匂いで、私を見つけてくださいね」 なんて。 そう、 これが愛の匂い。 絶対見つけます。 綺麗な素敵なお姉さんに違いないのだから。

昼休みの食堂ならきっと見つかるだろうと、嗅覚をとぎすまして昼飯食いにいったのだよ。 んが、うっかりビーフカレー辛口を食っちまったので、その後あらゆる匂いがビーフカレー辛口。 もうぜんぜん駄目。 インド恐るべし! なのであった。 しかし、ビーフカレーってのは納得いかないだろうな、インド人には。