1998 11 12

ちょっと

多分これが、尾鰭が付く前のオリジナルにもっとも近いものだろう。

対向車を避けようとしたトラックのサイドミラーが電柱か何かに当たって砕け、その破損してギザギザになったサイドミラーが、たまたまそこを通っていた女の人の顔に当たってしまった。 トラックは逃げて、その後見つかっていない。

女の人は病院に運ばれたが、怪我はひどくて、顔に傷が残ることになってしまった。 その人は綺麗な人だった。 本人も、自分の容姿が自慢であったらしい。 それだけに、口元から耳にかけて残る大きな傷痕は、ショックだった。

何度も病院を変えて整形するのだが、なかなか思うようにはいかず、逆に手術を繰り返すことが、傷痕をよけいにひどいものにしてしまった。 そうして、気が狂ってしまった。

ある日、カッターで、自分の顔の傷痕を切り裂いた。 反対側の頬も、口元から耳にかけて。

夜、マスクをして出歩き、たまたま出会った人に訊く。

「私、綺麗?」

マスクをとって、もう一度訊く。

「これでも、綺麗?」

両頬の大きな傷に驚く相手に、さらに続ける。

「いま、醜いって思ったでしょ? この傷を見て、醜いって思ったでしょ?」

ポケットからカッターを取り出す。

「2度とそんなこと思えないように、おまえの顔にも…」

口裂け女なんだけどね。 まだ3姉妹になる前の、100mを7秒代で走る前の、ね。

俺は中学1年の時、和歌山県の新宮市に住んでいた。 ある日、 「駅の裏の薄暗い通りは、あまり通らないように」 と母に言われた。 「あの通りには、頭のおかしい女の人が出るらしいから」 ということだった。 そして、この話を聞かされたのだった。 この当時はまだ、口裂け女という呼び方もなかった。

昨日、出張で川崎に行ったら、そこの女の子がマスクをしていた。 風邪なんだそうだ。 それを見て、思い出した。 あぁ、これは別に、その子が口がでかいとか、マスクをしていた方が可愛いとか、そんなことを言ってるわけではない。

今日は調子が悪くて、午後半休で帰ってきた。 帰りの電車の中で気がついた。 エリツィンはパタリロに似ている。