昼休み。 いつものように食堂に行くと、定食がクリスマススペシャルだった。 それを見て、今日がイブだったんだと気がついた。 定食はもう当たり前のようにまずかった。
保険屋が来た。 挨拶と、住所の変更がないかの確認。 「年明けにまた来ます」 と、帰っていったあと、机の上に見慣れないファイルが一つ。 何だろうと思って中をぱらぱら見たら、保険契約なんかの資料。 さっきの保険屋の忘れ物だった。 「これを、他の保険屋とか名簿屋に売ったら、いい値が付くだろうな」 と思いながら、さっきの保険屋に電話してやった。 俺って、なんていい人なんだろう。
東京三太を知っているだろうか。 メキシコ(だったと思う)から東京にやってきて、サンタクロースが好きなので、東京三太。 リングネーム。 本名はゴンザレス。 ボクサーだ。
まだ学生だったときのこと。 深夜に放送されるボクシング番組の対戦カードに、東京三太という名前を見つけた。 あまりにも間抜けな響きに、話のネタとして、これは見逃せないなと思ったのだった。
そして、夜。 テレビの画面から目が離せなくなっていた。 相手のパンチが、殆どあたらない。 三太のパンチは殆どあたる。 綺麗にかわして、綺麗に打ち込む。 圧巻だったのは、焦れた相手が体ごとぶつかるようにして、三太をどうにかコーナーに押し込んだときだ。 ここぞとばかりの連打を、上はかわし、下はブロックし、なんと全弾回避。 大振りのフックをすり抜けて体を入れ替えると、リングの中央で何事もなかったようにステップを踏んでいた。
三太の所属する共栄ジムには、当時、ロシアからやってきたアマチュアチャンピオンのボクサー3人がいた。 その1人であるナザロフは、三太と同じ階級だったのだが、スパーリングで三太にボコボコにされていたそうだ。 共栄ジムの会長は、三太には世界を、ナザロフには東洋太平洋を考えていたという。 しかし、東京三太は、その1年後ぐらいには全く見かけなくなってしまった。 いったいどうしたのだろうと思ったら、国に帰って世界チャンピオンになっていた。
という、南の国から来たサンタの話。
子供に見つかってしまったサンタクロースは、こう言うのだ。
「誰かにサンタクロースを見たかと訊かれたら、お父さんだったと言え。 もし本物のサンタクロースを見たと誰かに喋ったら、お前をトナカイに変えて、死ぬまでそりを引かせるぞ。 だが約束を守れば、来年もプレゼントをやろう」
なんてことを、あらかじめ子供に吹き込んでおくのはどうだろうか。 周りの子供から、サンタクロースは実は親だとばらされたときのために。 少しは、サンタの寿命が延びるのではないかと思うけど。 まぁ子供は子供で、気を使ってたりするんだけど。
で、俺の場合は、小学校の1年ぐらいまでは、サンタが来てるのかと思っていた。 サンタクロースには、親を通して、どんなものが欲しいかを伝えるのだと思っていた。
小学校の3年のクリスマスイブだったと思う。 頑張って起きてようとして、頑張りきれずに眠ってしまったのだが、夜中にふと目が覚めた。 そして、サンタクロースではなくて両親なのだということを、目撃したのだった。 一生懸命寝た振りしてたけど、これまでプレゼントを置いてくれていたのが親だと判って、嬉しかった。 俺は嬉しかったのだ。
ちょうど、グラスの水割りが無くなったところ。 眠る。