1998 12 24

せっかくだから

昼休み。 いつものように食堂に行くと、定食がクリスマススペシャルだった。 それを見て、今日がイブだったんだと気がついた。 定食はもう当たり前のようにまずかった。

保険屋が来た。 挨拶と、住所の変更がないかの確認。 「年明けにまた来ます」 と、帰っていったあと、机の上に見慣れないファイルが一つ。 何だろうと思って中をぱらぱら見たら、保険契約なんかの資料。 さっきの保険屋の忘れ物だった。 「これを、他の保険屋とか名簿屋に売ったら、いい値が付くだろうな」 と思いながら、さっきの保険屋に電話してやった。 俺って、なんていい人なんだろう。

クリスマスその1

東京三太を知っているだろうか。 メキシコ(だったと思う)から東京にやってきて、サンタクロースが好きなので、東京三太。 リングネーム。 本名はゴンザレス。 ボクサーだ。

まだ学生だったときのこと。 深夜に放送されるボクシング番組の対戦カードに、東京三太という名前を見つけた。 あまりにも間抜けな響きに、話のネタとして、これは見逃せないなと思ったのだった。

そして、夜。 テレビの画面から目が離せなくなっていた。 相手のパンチが、殆どあたらない。 三太のパンチは殆どあたる。 綺麗にかわして、綺麗に打ち込む。 圧巻だったのは、焦れた相手が体ごとぶつかるようにして、三太をどうにかコーナーに押し込んだときだ。 ここぞとばかりの連打を、上はかわし、下はブロックし、なんと全弾回避。 大振りのフックをすり抜けて体を入れ替えると、リングの中央で何事もなかったようにステップを踏んでいた。

三太の所属する共栄ジムには、当時、ロシアからやってきたアマチュアチャンピオンのボクサー3人がいた。 その1人であるナザロフは、三太と同じ階級だったのだが、スパーリングで三太にボコボコにされていたそうだ。 共栄ジムの会長は、三太には世界を、ナザロフには東洋太平洋を考えていたという。 しかし、東京三太は、その1年後ぐらいには全く見かけなくなってしまった。 いったいどうしたのだろうと思ったら、国に帰って世界チャンピオンになっていた。

という、南の国から来たサンタの話。

クリスマスその2

子供に見つかってしまったサンタクロースは、こう言うのだ。

「誰かにサンタクロースを見たかと訊かれたら、お父さんだったと言え。 もし本物のサンタクロースを見たと誰かに喋ったら、お前をトナカイに変えて、死ぬまでそりを引かせるぞ。 だが約束を守れば、来年もプレゼントをやろう」

なんてことを、あらかじめ子供に吹き込んでおくのはどうだろうか。 周りの子供から、サンタクロースは実は親だとばらされたときのために。 少しは、サンタの寿命が延びるのではないかと思うけど。 まぁ子供は子供で、気を使ってたりするんだけど。

で、俺の場合は、小学校の1年ぐらいまでは、サンタが来てるのかと思っていた。 サンタクロースには、親を通して、どんなものが欲しいかを伝えるのだと思っていた。

小学校の3年のクリスマスイブだったと思う。 頑張って起きてようとして、頑張りきれずに眠ってしまったのだが、夜中にふと目が覚めた。 そして、サンタクロースではなくて両親なのだということを、目撃したのだった。 一生懸命寝た振りしてたけど、これまでプレゼントを置いてくれていたのが親だと判って、嬉しかった。 俺は嬉しかったのだ。

ちょうど、グラスの水割りが無くなったところ。 眠る。