1999 02 06

中絶の2

昨日、一昨日、通勤電車から見る多摩川は、端の方が白く凍っていた。

塾の講師をしていたときのこと。

大柄で、丸顔で、誰にでもにこにこ話しかけてくる生徒がいた。 年齢よりは少し大人っぽい雰囲気の、中学2年の女の子。 ちょうど今ぐらいの時期だったと思う。 授業の合間に、その子とちょっと話した。

転校したのだと言う。 転校して、学校が遠くなった。 電車で20分ぐらいかかるところなので、朝早く出なきゃいけない。 寒くて眠くて大変なのだと。 この時期に引っ越すのは何かと面倒だろうなと思ったら、引っ越してはいないと言う。 「だったら、もっと近くの学校にすれば良かったのに」 という俺に、 「だって、近かったら意味無いじゃん」 と、 「そうでしょ?」 というような表情で答えた。

塾では、中間期末の結果(自分の点と平均点)から、このぐらいの点数なら成績が3だとか4だとか、そんな話を生徒にする。 俺は殆どしなかったが、する人はする。 その子を受け持っている数学の講師も、する人だった。

その日、その人が、 「いやぁ、参っちゃったよ」 と言いながら、授業から戻ってきた。 いつものように、点数と成績の話をしていたのだそうだ。 この平均点だと、80点以上であれば4は確実だと。 そのとき、 「私、中間も期末も80点以上だったけど、3だったよ」 と、その子が言ったのだそうだ。

なぜ、点数が良くても成績が悪いのか。 なぜ、わざわざ遠くの学校に転校しなければならなかったのか。 それは、その子がちょっと前までぐれていたからだ。 と、ほかの講師から聞いた。 自業自得と言ってしまえばそれまでなのだが…くだらない。 その子はもちろんだが、中学校の教師に対しても、くだらないことをするもんだと思った。 その後しばらくして、その子は塾を辞めた。

2年ぐらいたった冬のある日、その子を見かけた。 ずいぶんやつれた感じだった。 次の日、塾でその話をしたら、先の講師が言った。

「そう言えばあの子、中2のときに妊娠して、中絶したんだよね」