1999 03 09

テクニシャン?

府中駅を出たら、ポツポツと雨が降っていた。

カシンカシンと音がして、見上げると、壁面に吊り下がった男が窓の清掃をしていた。 清掃が終わった窓も、これからの窓も、同じように雨に濡れて汚れるのだろう。

せっかく、空と俺との間に今日も冷たい雨が降っているのだから、 「あなたが笑ってくれるなら、わたし、小悪魔になってあげる」 なんて人がいないかな。 ガーターベルトの似合う小悪魔がいいな。

「人差し指を、ここに入れて」

「こう?」

「もっと奥まで」

「このぐらい?」

「そう。 指、動かして」

「……」

「あ、もっと上下に、あたるように」

「こう?」

「そう。 もっと速く」

「もっと?」

「もっと。 もっと強く」

「……」

「きつい?」

「うん、かなり」

「でも、もう、あ、もうすぐ」

などと、小悪魔じゃなくて白衣の天使と、昼間から。 本当はもっと丁寧な言葉遣いで。

今日はVDT健康診断。 ディスプレイを見てキーボードを叩く職業のための健康診断らしい。 で、タッピングという項目があって、機械につっこんだ指を、上下に30秒間トタトタ動かすんだけど、これがかったるくて。 他にも視力検査や、眼圧の検査など。

視力検査。 恐ろしいことに、裸眼視力が 0.1 を切っていた。 ちょっと乱視の気もあるらしい。 タッピングは、良かったらしい。 終わった後で看護婦さん、 「すごいのね、よかったわよ」 と言っていた。 本当はもっと事務的な言葉遣いで。