1999 12 10

一方的に

通勤快速。 車輌の一番奥、連結部の横のドアにある手すりにもたれていた。 目の前に座っているオッサンの口が半開き。 眠っているらしい。 ちょっと向こうには、思いっきりいびきをかいて眠っているオッサン。 無様だなぁ。

府中だったかな。 女の人が、俺の後ろに背中合わせに立った。 背中でじわじわ押してくる。 鬱陶しい。 何でわざわざ狭い所に入ってくるんだよ。 と、押してくるのに抵抗していた。

「すいません、狭いんですけど」

「は? だから何?」

「何でそうやって幅寄せして来るんですか?」

「そっちが後から来たんでしょう」

「だってあなた吊革持ってるじゃないですか」

「狭いのが嫌なら、そっちに行けば? 開いてるでしょ」

「これから人がたくさん乗って来るんですよ」

「まだ来てないじゃん。 詰めるのは来てからにすればいいでしょ」

黙ったと思ったら、また背中で押してくる。 俺もまた抵抗する。 と、

「最低!」

捨て台詞を残して、隣の車輌にいってしまった。

おいおい、そりゃないだろう。 幅寄せしてきたのはそっちだろ? それも、まだ開いているところがあるのに、わざわざ狭いところに入ってきて。 で、それを 「そっちが後から来た」 と指摘すると、今度は吊革を持っているから譲れという。 幅寄せはどうなったんだ? 幅寄せしたのは自分だってことを認めたのか?

これから人が乗ってくるからと言って、まだ混雑して無くても詰めておく必要があるか? 無い。 あんたは、がらがらの電車でも、きっちり隣と詰めて座ったりするのか? そんなことしないだろうに。 まだ空いているうちから窮屈な思いをしなくてもいいってのは、間違ってるか?

ドアにもたれるのが楽だと思ったから、わざわざ狭いところに入ってきたんじゃないのか? それで、前の人でなく、後ろにいた俺を背中で押す。 なんで前の人を押さないんだ? 手で押すんじゃなくて、背中で押すのはなんで? そこに俺は狡さを感じるんだけど。 しかも 「ちょっと詰めてくれ」 じゃなくて 「何で幅寄せするんだ」 と、全面的に相手が悪いという態度。 挙げ句は 「最低!」 なんて捨て台詞。 あんたが俺を 「最低」 だと言う理由が、自分だけ良ければいいと譲り合わないことなら、同じ理由であんたも 「最低」 だよ。