2000 04 06

差別か区別か

隣のスーパーで、レジに並んでいた。 俺の前にいたのは婆さん。 店員に告げられた金額を、もたもた財布から取り出そうとしていた。 店員が、店の袋を取り出そうとして落としてしまい、代わりの袋を出して、婆さんの籠に入れた。 落とした袋は足で拾い上げて、横のボードにかけた。

俺の番が来た。 ちょっとしか買ってないので、あっという間に集計が終わった。 店員は、金額を告げると、振り向いて、ボードにかけていたさっき落とした袋を、俺の籠に入れた。

「これ、さっき落とした袋だろ?」

「あ、取り替えます」

「それでさぁ、落とした袋を出すのは、なんで?」

「あ、はい、あのー、ちょっと落としてしまって、汚れてたんで、新しい袋にしました」

「俺に言われてね」

「はい、そうです」

「だから、落としてしまって、汚れてた袋を出したんだろ?」

「いや、これは新しい袋です。 汚れてないです」

「さっき、落とした袋を出したのは何でかって訊いてんだよ」

「はい、あのー」

「汚れてると思ったから、取り替えたんだろ?」

「そうです。 新しい袋に替えました」

「じゃあ、何で最初は、その取り替えたほうがいいと思う汚れた袋を出したんだ?」

「あ、ちょっと落としてしまって、取り替えた方がいいかと思って、取り替えました」

「自分からやったんじゃなくて、俺に言われてだろ?」

「はい、そうです」

と、かみ合わない会話をしばらく続けて、この店員に対してずっと持っていた疑惑が、確信に変わった。 こいつは 境界線上の人 なのだ。 それで、ぐだぐだ言うのを止めて、 「もういいよ」 と帰ってきた。 彼がいかにも境界線の向こうの人だったら、俺はきっと何も言わなかっただろうと思う。 ま、初めから 「袋を替えてくれ」 とだけ言えばいいのだが。