まだ大学生だった頃のことだ。
「決めた」
「何を?」
「もてる男になる」
「あぁそう。 まぁいいんだけどさ。 で、どうやって?」
「やっぱり会話じゃないかなぁ、会話」
「そう言えば、俺達の会話って、理系の男にしか受けないようなのばっかだな」
「でしょでしょ?」
「クッキーの箱に対する有効容積比なんて言われても、なぁ」
「だから、そんなんじゃなくて、もっと文系の女に受けそうなの」
「具体的には?」
「……」
「出てこないのかよ。 駄目じゃん」
「どうすればいいと思う?」
「知るかよ」
「なんか考えてよ」
「何で俺が?」
「そのままじゃもてないよ?」
「お前の問題だろうが。 しかし文系の女に受けそうな話って言われてもなぁ…」
「んー…」
「あ、秋元康なんていいんじゃないか?」
「秋元康かぁ」
「デブを補うために会話を磨いてますって感じがしねーか?」
「あ、そうか。 じゃあ秋元康を見て勉強するよ」
秋元康の会話を見て勉強するって結論が、既に駄目駄目なんじゃないかって気がするが。 その後、少なくとも3年間は、そいつはもてる男にはならなかった。 就職してからどうなったのかは知らない。
自分のを読み返してみた。 学生の頃の 「理系の男にしか受けないようなのばっかり」 から全然成長してないような気がする。 贔屓目に見ても、あんまりもてそうにはないな。 こんなことでいいんだろうか。 まあいいか。