2000 06 24

働く母親に対する理解の1

自己顕示を目的に、大きな音をさせてわざとゆっくり走る。 選挙カーと暴走族と、いったい何が違うのか。 「最後のお願い」 と言いながら、俺の家の前を3回も通りやがって。 うるせえ。 落ちろ。

「私が国会議員になったら、子育てしながら働くことが当たり前の社会にする」 のだと、自民党のCMで言っていた。

山口県防府市の、三田尻保育園にいた。 4歳ぐらいまで。 当時のことを、断片的にだけど、覚えている。 その一つ。

夕方。 母親が迎えにくる時間はとっくに過ぎていた。 他の子供が皆帰ってしまって、残っているのは俺だけ。 すっかり暗くなってしまった窓の外を眺めて、 「お母さん、遅いねぇ」 と保母さんが言った。

もう何年も前のことだが、子供を保育園に預けて働いている女の人と、一緒に仕事をしたことがある。 歳はそんなに変わらないが、入社は俺の5年か6年ぐらい先輩。 仕事は Solaris, Motif, INFORMIX いや SYBASE だったかな。 元々は、彼女ともう一人、確か入社2年目の男性とでやっていた仕事。 遅れが目立ってきたので、たまたま手が空いていた俺が、手伝いで入ることになった。 作業の殆どは Motif の画面を作ることだったのだが、実は3人とも Motif をいじったことが無かった。 俺が SunView をちょっと知っている程度。 それで作業分担を、難しいのを2つだけ若いのに、残りを6:4で俺とその女性で分担した。 難しいのはできない。 子供を保育園に迎えに行くので、5時には帰らなければいけない。 そう言う彼女の希望を入れて、比較的簡単なものばかりを割り振った。 つもりだった。

しかし、最初に決めたやるべきことは、どうもやれそうに無くなってきた。 ソースコードを見ただけで死ぬと判るようなプログラムを、 「できました」 と持ってくる。 「ここに説明がありますから」 と、参考書のページまで教えているのに、 「その通りにやってみたけど、動かないんですよ」 と。 それならまだいい。 ときには 「読んだけど、よく判らないんですよ」 と。 そんな様で、さらに、 「今日は子供の具合が悪いので、早く帰りたいんですよ」 と言うことが、けっこう頻繁にあった。

「やるべきことをやってくれさえすればいいです。 早く帰ろうが休もうが」

「……」

「お父さんが迎えに行くわけには行かないんですか?」

「今、忙しいらしいんですよ」

「あなたは忙しくないんですか?」

「……」

ある日、主任から訊かれた。

「渡邊君の方はどうなの?」

「殆ど終わってます」

「あ、そう。 彼女のほうは、さっき訊いたら、後1ヶ月はかかるって言ってたけど」

「1ヶ月? あんなもの、頑張りゃ3日、かかっても1週間です」

「え、でも、そのぐらいはかかるって言ってたよ」

「かかりません」

その数日後。

「渡邊君がやれば3日でできるって本当?」

「俺がやれば、じゃなくて、誰がやっても、ですよ」

「それでさあ、彼女には外れてもらって、渡邊君にやって欲しいんだよ」

「なんでですか?」

「いや、1ヶ月かかるって言うからさ。 もう時間無いし」

「だから、そんなにかかんないですって」

「だって、かかるって言ってるよ。 それに、ほら、子供を迎えに行ったりとかさ」

「関係無いです。 何で彼女の家庭の事情で、俺が割りを食わなきゃいけないんですか」

「そりゃそうだけど、出来ないって言ってるし、もう時間無いし、頼むよ」

「これまでだって、もう十分手伝ってますけどね」

「そうかもしれないけどさぁ」

「それに、俺がやったとしても、1ヶ月かかりますよ」

「え?」

「彼女が1ヶ月かかるというなら、それが俺にとってどんなに簡単でも、1ヶ月かけます」

「なんで?」

「馬鹿馬鹿しいからです」

結局、 「彼女の担当分は彼女が作る。 ただし、子供を迎えに行く関係上、川崎での作業は無理なので、現地作業は俺がやる」 ことになった。

続く。