2000 08 23

妄想

叶姉妹の妹の方が、露出度を上げている。 姉がプロデューサー役なのだと、朝のテレビで誰かが言っていた。

叶姉は、妹に対して、本人は決して認めないだろうが、焦りと妬みと敗北感を感じている。 憎しみと言ってもいい。 昔からずっと抱いていたのだが、これまでは、努力して自分を磨くことで何とか克服してきた。 しかし、それももう限界に近い。 今や明らかに自分は下り坂だ。 という思いが、密かな憎しみが、あんな下品なゴージャスに妹を仕立て上げるのだ。 そして、それで注目を集める妹の姿に、また更なる憎しみを溜め込んでいくのだ。

と、どんどん嫌なほうに想像して、一人で納得。

会社で晩飯。

「あーもー帰っちゃおうかな」

「そう思うなら、さっさと帰れよ」

「明日できることは今日しない。 だっけ?」

「そうそう。 基本だよ」

「でもなぁー、今帰ると、明日もっと忙しくなるんだよなぁ」

「そうとも限らないだろ」

「なんで?」

「今日の帰りに、交通事故かなんかで死ぬかもしれないだろ」

「なんだよ、それ」

「後回しにした嫌な事を、やらずに済んでよかったじゃん。 死に得。 ラッキー」

「それ、ラッキーか?」

「お前、帰りに事故で死ぬなんて、考えたことも無いだろ?」

「うん」

「甘いね」

「お前、誰かに後ろから刺されるなんて、考えたこと無いだろ?」

「刺されるか」

「考えた方がいいよ」

実は、よく考える。 例えば家に帰るとき。

ちょうど空き巣狙いが入っているところに俺が帰ってくる。 階段を上る足音に焦る泥棒。 窓から逃げるか? しかし部屋は3階だ。 と、台所に出しっぱなしの包丁に目が止まる。 とりあえず物陰に隠れて、隙を見て逃げよう。 もしも見つかったときは、この包丁で…

なんて想像すると、自分ちのドアを開けることさえスリリング。 誰かが、このドアの向こうで、包丁を握り締めたままじっとりと汗ばんでいるのだ。 鍵を差し込む音に、ごくりと唾を飲み込んでいるのだ。

窓に蟷螂。 明日は久しぶりに浜松町。