2000 12 27

最後の1本

インスタントの不味いコーヒーと、先週買ったアスパラガス(ビスケット)。 仕事に飽きてポリポリ食ってたら、隣の庶務さんも、同じように仕事に飽きていたらしい。

「それ、まだ残ってたの?」

「アスパラ?」

「そう。 先週も見たよ、それ」

「そりゃ先週買ったから」

「ずいぶんゆっくりじゃない?」

「向かいの団地があるでしょ? ほら、そこの窓から見える」

「え? あ、あそこ?」

「そこの最上階の、右から4軒目。 ちょうどブラインドの隙間から見えるところ」

「どうかしたの?」

「あそこに、ずっと病気で寝たきりの女の子がいるんですよ」

「そうなの?」

「もうずっと、ベッドから窓の外をみるだけの生活でね」

「何で知ってるの? そんなこと」

「まあ、いろいろあって」

「ふーん。 可哀想だね」

「で、ちょうどあのブラインドの隙間から、俺の席が見えるらしくて」

「ここが?」

「そう。 それで、その子、窓からいつもこっちを見ながらね」

「うん」

「お母さんに言うんだって。 『あのアスパラの最後の1本が食べられたら、私も死ぬの』って」

「……」

「だから、なかなか全部食べられなくて」

「はぁ?」

「最後の1本を食べるときは、袋にリアルなアスパラの絵を描いておかないと」

「ちょっとぉ、本気で寝たきりの子がいるって信じかけたじゃないよぉ!」

「あっ、判った? 嘘だって」

「むかつくっ」

むかつくと言いながらへらへら笑っていた。 やる気は限りなく0に近い。