2001 02 20

もてたい

職場では、昼休みになると、ラジオのニュースが流れる。 それを聴きながら。

「えひめ丸もそうだけど、何で船の名前には『丸』が付くんだ?」

「あ、それ、何かで読んだんだけど… んー… 忘れた」

「どっかの言葉で、船のことをマルって言うとか?」

「なんかそんな感じだった」

「えひめ丸って、引き上げるのかな」

「どうなんだろうね。 引き上げてくれって言ってるみたいだけど」

「引き上げてどうするんだろうね」

「ん?」

「船を引き上げてくれってのは、遺体を引き上げてくれってことだろ?」

「まあそうだろ。 葬式でもするんじゃないの」

「それって、要するに、焼くために引き上げるってことだろ。 すげー無駄じゃん」

「そりゃまあそうだけど」

「ほっといて魚の餌にでもした方が、まだ役に立つだろ。 金もかからないし」

「金はけっこうかかるらしいね。 億単位だってよ」

「引き上げるのを止めて、かかる金を遺族に渡したら、遺族はその金で引き上げるかな?」

「またそーゆーことを」

「いや、でも、ちょっと興味あるだろ? どうすると思う?」

「んー…やっぱ引き上げないだろ。 家のローンとかになるんじゃないかな」

「そうだよな。 海の底で安らかに眠ってもらうとか言い出してさ」

「それを見た助かった方の親は、この子も死んでくれたらってどっかで思うんだろうな」

「そうそう。 とりあえず、大金を貰った遺族とは仲が悪くなりそうだよな」

「しかしお前、デリカシーの欠片も無いな」

「デリカシーか?」

「デリカシーだよ。 女の子の前でそーゆーこと言うと、もてないよ」

「もてないかな?」

「駄目だよ。 そんなことじゃ主夫に貰ってくれ手がないよ」

「あ、じゃあ今の無し」

「遅いよ」

船(=遺体?)を引き上げてもらったところで、子供が生き返るわけじゃない。 それはもちろん遺族だって判り切ったことだろう。 遺族は、たぶん気持ちの区切りをつけたいんだろうと思う。 とは言っても、子供がいない俺には、子供を無くした親の気持ちは想像の彼方だけど。

ところで、遺族が要求する補償(金額)ってのは、どの辺りが妥当なところなのかね。 過失100%の交通事故に要求できる金額じゃないかと思うんだけど。 日本国内で起きたことならともかく、ハワイでだからね。 相手が米軍だってことは、なんでもかんでもやらせる根拠にはならないだろう。