2001 12 02

婆さん

天気が良いので浅川の土手を散歩していたら、婆さんが倒れていたという話。

浅川土手の遊歩道、かつてホームレスが死んだ辺りで、子供が泣いていた。 小学校の2年か3年ぐらいの、おかっぱ頭の男の子。 声をかけようか無視しようか迷っていたら、土手から男が駆け上がってきた。

「携帯電話を持っていませんか?」

と、その男。 黒のジャージ上下。 髭面。 後ろで束ねた髪は、 「伸ばした」 よりも 「伸びてしまった」 という風情。 子供の父親らしい。

「いや、持ってないです」

そう答えて、男が来た方を見ると、婆さんが倒れていた。 「ヴー…ヴー…ヴー…」 とバイブに設定した携帯が着信したような唸り声。 苦しそうな顔。

どうしたものかと辺りを見回して、ジョギングの途中らしいおばさん(と言い切るにはちょっと微妙)を発見。 生え際まできっちり染めた金髪。 100%の描き眉。 ジョギングのくせに厚化粧。 これはきっと携帯をもっているに違いないと思って、声をかけた。

「すみません、携帯持ってませんか?」

「いえ、持ってないですけど、どうかしたんですか?」

「人が倒れてるんで、救急車を呼びたいんですが」

「えっ!」

駆け寄ってくるおばさん。 婆さんの傍に戻っていた男に声をかけた。

「どうしたんですか? 大丈夫ですか?」

「貧血を起こして滑り落ちたらしいんですよ。 ちょっと自分が向こう岸に行ってるときに」

「はやく救急車を呼ばないと… えーと… 誰か…」

倒れている婆さんを見て動揺するおばさん。

「ちょっと電話を借りてきます」

そう言い残して、男が土手を走って行った。 すると、すぐにおばさんが婆さんの傍に行って、 「大丈夫ですか? 痛いところは無いですか?」 などと声をかけ始めた。 俺はそれを土手の上から見ていた。 おばさんがすぐに体が動くことに感心したり、 「ちょっと向こう岸に行っていたときに」 という男の言葉を反芻したりしながら。

数分で男が戻ってきた。

「今連絡をとりました。 もう大丈夫です。 ありがとうございます」

と男。 すぐに救急車が来るらしい。

通りかかった別の婆さんが、

「貧血には飴が良いらしいですよ。 これでもどうぞ」

と飴を差し出した。 男が、受け取った飴を婆さんの口に入れようとするので、それは弱って仰向けになっている今は拙いだろうと止めた。

それからまた散歩。 しばらく土手を歩いたところで、サイレンが聞こえてきた。 だんだん近付いてくるそのサイレンは消防車。 俺の前を歩いていたさっきのおばさん(と言い切るにはちょっと微妙)が、不安そうに振り向いて、話し掛けてきた。

「いまの、消防車ですよね」

「そうですね」

「救急車呼んでないのかなぁ… 電話番号間違ったんですかねぇ」

「救急車も消防車も119番でしょう」

「あ、そうか。 じゃあ呼ぶの間違えたんですかねぇ」

「前にもあそこで人が倒れていたんですけど、そのときも消防車と救急車が来てましたよ」

「そうなんですか?」

「間違えたにしても、消防車の無線で救急車が呼べるし、大丈夫でしょう」

「そうだといいんですけど、心配だなぁ…」

おばさん、本当に心配な様子で、何度も振り返りながら歩いていった。

それから少しして、救急車のサイレンも聞こえてきた。

+

拘束

改めて見てみれば、意外にSMチック。

火の用心

たいていの人生は無駄に終わる。 その無駄に終わった人生の死屍累々。

秘密

言えない。 クレーンを見てホーキング博士を思い出したなんて…