2003 11 06

死ぬまでは生きている

ベルを鳴らそうと指を掛けたら、ベルごとぐるっと回ってしまって、びっくりしているおばさんを見た。 おばさん、自転車を止めて、逆さにぶら下がっているベルをまじまじと見ていた。

その数分後。 立ち上がって勢い良く踏み込んだら、ペダルが外れてしまって、派手に声を上げたおっさんを見た。 ペダルが片方だけになってしまっては、さすがに乗り辛いのだろう。 おさっん、落ちたペダルを拾うと、来た道を自転車を押して戻っていった。

人生いろいろだ。

「はい、これ。 確かめてハンコ押して返してね」

「ん? あ、保険のやつね。 はい、即返し」

「保険、入ってないの? 入って忘れてんじゃない?」

「いや、入ってないんだよ。 死して屍拾う者無し」

「あー、私そーゆー諺に弱いんだよね。 シカバネ? は聞いたことあるけど」

「諺じゃないんだけど、まあ、似たようなもんか。 ちなみに屍は死体」

「でも年金は入ってるんだね。 年金はねぇ、やっといた方がいいよ」

「うん、何となくね。 死ぬまでは生きてるし」

庶務さんとそんな話をした後で考える。 死ぬまでは生きてるんだろうか。 死んでないから生きているってのは、医学的にはそうかもしれないが、じゃあ人としてはどうだろう。 最近、長寿日本一だった婆さんが死んだ。 彼女は、一日起きて一日眠るというサイクルだったんだそうだ。 起きているらしい時をテレビで見たのだが、起きていても半分死んでいるようだった。 あれはもう 「尊い命」 では無いような気がした。

先日、仕事の帰りに鼬(だと思う)を見た。 闇から俺の前に駆け出してきて、結構高い工場の金網を乗り越えて、また闇に消えていった。 金網を乗り越える途中で目が合ったそいつは、都会に残る中途半端な野生のくせに、何だかギラギラして見えた。