2003 12 03

鎮魂歌

もう12月か。 何だかあっという間に時間が経ってるな。 かなり無為に。 月曜から風邪で休んだせいで、面白くない仕事ばかりが余計に山積みだ。

府中駅前で、ストリートミュージシャン気取りが歌っていた。 夕闇、ちょっと疲れた人たちの雑踏、人恋しくなる寒さ、そんな好条件の中で歌っているのに、 「駄目だな、こいつ」 という感想しか呼び起こさない下手っぷり。 そう思うのは、俺だけじゃないんだろう。 うまい人が歌うときは結構な人の足を止めるのだが、今日はたった一人、制服姿の女の子が座っているだけだった。 あれは、足を止めたんじゃなくて桜か。 あんなに座ったら歌ってる男からパンツが見えちゃうだろうに、気にした風も無いのは、歌っている男の彼女だろうか。 と、気になるのは歌以外のことばかり。 そんな様子を横目に眺めながら、しかし足は一瞬も止めずに通り過ぎて、下手な歌はすぐ聞こえなくなった。

いつもならそれで終わるのだが、今日はなんだか下手さに感じた苛々が後に残る。 うっかり納豆を食べた後、いつまでも口が臭いような感じ。 何でこう苛々するんだろうと考えてみるに、多分、歌っていた男の表情なんだな。 陶酔しきった表情。 客観的にはただ下手なだけだが、歌っているあいつはそれを個性だと思っている、世間はまだ俺の才能を理解できないけど、いつかきっとと思っている、そんな表情。 ああ、いや、これは俺自身の問題かもな。 これと言ってやりたいこともない冷めた毎日の俺には、あれが、無邪気に才能を信じて小さいながらも一歩を踏み出す姿に見えて、嫉妬を掻き立てられているのかもしれない。 願わくば、ミュージシャンを目指したものの挫折して、つまらない仕事に追われるようになって、やがて出来ちゃった子供がまたミュージシャンになりたいとか言いだして、 「お前が思うほど簡単なものじゃない!」 なんて無自覚な嫉妬混じりに反対して、自分が嫉妬していることに気が付いて愕然とせんことを。 なんて嫌なことを考えていたら、ちょっと笑いそうになった。 何を考えてんだか。 今の自分の仕事がつまらないから、そんな風に自嘲気味に考えてしまうんだろう。 くだらない。

電車の中、向かいのおっさんが読んでた新聞にイラク関連の見出しを見つけて、ふと 「血祭り」 を直訳すると"blood festival"だと気付いて、うっかり笑ってしまった。 祭りは盛り上がっているのだろうか。 あるいはこれから盛り上がるのか。