金曜日は残業無しの日。
「会社の売店はさぁ、やっぱり駄目だよな」
「どうかしたんですか?」
「このくそ寒いのに、ホットが無いんだよ」
「それ、買ってきたのはホットじゃないんですか?」
「一応ホットなんだけど、温かくないんだよね」
「ぬるま湯ですか」
「むしろぬるま水。 これ、多分さっき加熱始めたばっかりだよ、昨日の売れ残りに」
「それはちょっと駄目ですね。 飲みたくないかも」
「だろ? しかもそもそも俺が飲みたかったのは、これじゃないんだよ」
「何がよかったんですか?」
「ハチミツレモン」
「はぁ…」
「昨日も一昨日も無かったから、もう仕入れる気無しなんだよな、きっと」
「人気無いんですかね」
「俺は毎日買ってたのに… って、俺しか買ってなかったのかな?」
「それはあるかもしれないですね」
「そんな不人気を毎日買ってる俺は、店員から『ハチミツレモンの人』とか呼ばれてたりして」
「ははは」
「もっと省略して『ハチミツ』とか」
「実際ありそうですね」
「で、『ほらほら、さっき来た人がハチミツ。 全然似合わないよね』なんて言われてんだよ」
「もう断定ですか」
「うん。 『どうせハチミツしか買わないんだし、ハチミツレモンはもういいよね』って」
「本当にそれで販売中止は悲しいですね」
「想像だけで腹立ってきたな。 この気持ちを何処に向けりゃいいんだ… あいつか」
「なんだか迷惑な妄想ですね」
「迷惑してるのは、ほぼ一方的に俺なんだけどね。 はぁ… 仕事でもするか」
「そうそう、今日はUAE戦ですよ」
「あ、そうか。 じゃあ早く帰らないと」
で、家に帰ったのは2時過ぎ。 とっくに終電は無くて、タクシーで。