2004 07 14

鬼灯泥棒

いつもより少し早く家を出て、いつもより少しゆっくり歩く。 電車の時刻に少し早いだけで道行く人がぐっと減るのは、誰にとっても朝の数分が貴重だからだろう。 駅に向かう道には、近所の中学校の制服を着た女の子が一人。 角の定食屋は 「ひつじや」 だったかな。 入り口から横の壁に掛けてプランターが並べられ、たいてい何かしらの花が咲いている。 今は、花に並んで鬼灯が膨らんでいる。 まだ薄緑色で、手に収まり良さそうに、いかにも手触り良さそうに。 前を歩く女の子もそう思ったのだろう。 吸い寄せられるように鬼灯に近寄って、しばらく眺めて、それから一つをもぎ取った。 手のひらでころころ転がしながら、横を通る俺を伺うように見るのは、きっと罪悪感のせいだ。 あの鬼灯をどうするんだろう。 学校に持っていく途中で捨ててしまうのだろうか。 学校でもずっところころと弄ぶのだろうか。 突然握り潰したくなったりしないのだろうか。 いずれにしても最後には捨てるだろう。 その時にも罪を感じるだろうか。 それとも、あの子の目に見た罪悪感は、俺の心の投影だったのだろうか。 そんなことを考えてるうちに駅について、すぐに電車がホームに入ってきた。

今日、梅雨が明けたらしい。