2004 10 11

台風一過

朝の通勤電車では、たいていドア横に立ってる。 ドア横に立って、手すりにもたれて、なんとなく窓の外を見ている。 「天気がいいなぁ」 とか、 「雨だなぁ」 とか、見たまんまの感想を、 「仕事に行くの、めんどくさいなぁ」 の頭にくっつけて。 それでも、途中で降りたりそのまま遠くに行ったりすることも無く、ちゃんと仕事に行くんだけど。

電車から眺める窓の外、多摩川の川原に、何年か前に小さなテントを見つけた。 工事現場でよく見る青いビニールシートで作った、いかにもホームレスの家(語義矛盾)といった感じの、小さなテント。 そのテントを見て、 「こんなところで暮らすのは辛いだろうな」 と思った。 同情でもなんでもない、単なる感想として。 そんなところに住むようになったのには、それなりの事情があるのかもしれないが、その事情を想像して同情したりはしない。 もちろん、そんな生活はしたくない。

そのテントが、だんだん改良されていった。 板壁になり、高床式になり、窓がつき、テラスができ、ちょっとした山小屋ぐらいになった。 小屋の横にはテーブルと椅子が並べられた。 小屋の住人らしい男はその椅子にゆったりと座って、目の前の川に釣竿を伸ばしていた。 夏には、どこから持ってきたのか、大きなパラソルが広がっていた。 どう改良したところでやっぱり粗末だし、そんなところに住みたくないのだが、その一方でちょっと羨ましさを感じるようにもなった。

台風の翌日はいつも、電車に乗ると、その小屋のことを思い出す。 川が増水し、茶色い水が轟々と流れているのを見て、期待が高まる。 そして、小屋がそのまま残っているのを見てがっかりするのだった。 これまで、小屋が流されたことは無い。 今回もやっぱり、がっかりしたのだった。