2004 11 04

話し女

今一つやる気の出ない毎日。

帰りの電車で、隣の男女の話し声をぼんやり聞いていた。 男女の話と言うより、女が一方的に語って、男は時々相槌を打つ程度。 女が語るのは、どうやら身内のゴタゴタらしい。

母親が韓国人で、私も韓国流の教育を受けていて… 韓国人は気性が激しくて、ついきつい言い方をしてしまって… 親戚とは折り合いが悪くて、稼ぎがあるんだから家賃を納めないなら出て行けって言われて… この頃は子供が言うことを聞かなくて、もう何を考えているのか判らなくて…

なんてことを延々繰り返し話していた。 「親戚」 は 「親」 だったかもしれない。

向かいの窓に映る姿を見るに、女の年齢は60弱といったところか。 水商売風っぽい雰囲気の濃い化粧に派手な服。 この年でこの派手さに相応しく太った体を、半分隣の男に向けて座っていた。 男は60〜70の爺さん。 血色のいい顔に総白髪が、なんとなく上品な感じ。 女のいかにも話す気満々な姿勢に対して、男は体は正面を向いたまま、顔だけを少し傾けるようにしていた。 どーゆー組み合わせなんだろうかとちょっと興味が沸いたところで、 「まあ、あまり深刻にならないことですよ。 それじゃあ、私はこれで」 と、男が電車を降りた。

開いた席に、入れ替わりのように乗ってきた同じぐらいの年恰好の男が座った。 さっきの男よりもやや疲れた感じで、背中だけじゃなく頭まで後ろにもたれていた。 電車が動き出して暫くすると、女がまた隣の男に向けて話しかけた。 一瞬前に向けた体を、また男の方に向けて。

「この次の駅はどこでしょうか?」

「次? 次は百草園」

「この電車は、高尾に停まるでしょうか?」

「高尾? 高尾に行くかどうかは知らないけど、乗換えるなら北野。 どこまで行くんですか?」

「高尾です」

「この電車がどこ行きかは見なかったけど、乗り換えるなら北野ですよ、北野」

「この電車は高尾行きです」

「は?」

「… あの… 野球の新しいチームは、どっちに決まったのでしょうか?」

「楽天」

「楽天ですか。 えーと、ライブドアでした? どこが悪かったんでしょうか?」

「さあ」

「やっぱり何か違いがあるんですよね。 何でしょうか?」

「知らない」

「……」

最初は女の方を向いて答えていたのが、 「この電車は高尾行きです」 以降、顔どころか目すらもそっちに向けることなく、否定の単語のみで答えていた。 会話そのものを拒否するオーラを、全身から発しながら。 仕事で疲れているところに、知らない婆さんの話し相手などしたくないだろう。 それでも付き合った会話が、何だか馬鹿にされたようなものでは、腹も立つだろう。 会話を打ち切りたい男の気持ちはよく判る。

そうした態度の甲斐あってか、女は大人しくなった。 が、諦めた訳けではないらしい。 姿勢もそのままに、じっと横男の顔を凝視していた。 二駅先で俺が降りるまでずっと。 多分、俺が降りた後もずっと。

察するに前の男も、ただ隣り合わせただけの全然知らない人だったのだろう。 きちんと相槌を打ってくれるから、いろいろ話したんだろう。 ひょっとしたらその前にも、隣に座った人に何かと話していたのかもしれない。 その前の人にも。 そのまた前の人にも。 何だったんだろう、あの女。

ところで野球。 ライブドアと楽天とだったら、楽天だろうと思うが、その前にまず審査をする側が問題だよな。 既存の球団経営者(社)と楽天,ライブドアを一緒に審査して順番にしたら、ライブドアよりも下に行くのがいないのか? いろいろ不祥事を起こしたりしているのは、倫理基準には引っかからないのか?