2007 01 17

電話

いつものように、と言うのも憚られるのだが、まあいつものように、ちょっぴり遅刻で歩く職場への道。 携帯電話が胸のポケットで震える。 会社からかと思ったら、母からだった。

あのね、お父さんだけどね、様子がおかしいんよ。 もうね、何か腑抜けみたいになって、自分じゃ何も出来なくなってるんだって。 全然ご飯も食べずに、お酒ばっかり飲んで、炬燵の中で寝てるんだって。

毎年、正月は、お父さんこっちに来てるじゃない。 それで一週間ぐらいで広島に戻るでしょ。 でも今年は、その後こっちから広島にも行ったから、だいたい一ヶ月ぐらい一緒だったんよ。 だから、一人になったら寂しかったんじゃないかね。 それで、気持ちが沈みこんだんじゃないかって思うんよ。 お父さん、結構寂しがりだから。

こっちに戻ってきた後で、近所の人から電話があってね。 「渡邊さん、また横浜に行っとっての? こっちに戻ってきたと思っとったけど、もうずっと姿を見ないし、夜は電気もついてなし、ちょっと気になって」 って。 こっちから電話してみたんだけど、家の電話も携帯も繋がらないんよ。 それで、おばちゃんに行って見て貰ったんだけどね。 ドアを開けたらもう凄いお酒臭くて、髭ぼうぼうで炬燵の中で丸くなってたんだって。 やつれて、体が震えて、呂律も回らなくて、何かもう死んでもいいみたいなことを言ってるんだって。 おばちゃん、慌てて何か作って食べさせようとしたんだけど、食べても全部吐いてしまうんだって。 どうも、私らが帰ってから、何も食べてないらしいんよ。 お酒飲むばっかりで。

それでおばちゃん、介護の人に来てもらうように頼んだのね。 だけど、ちょうどその人が来たときに、お父さんまたお酒飲んでたのよ。 介護って、お酒飲んでると、やってくれないんよね。 お酒飲んでる人相手だと、いろいろトラブルがあるから。 それで、その人は駄目になったんだって。 それでまた別のところに無理言って来て貰うことにしたんだけど、そこも、お父さんの様子を見て、これじゃあ無理ですって断られたんだって。 その日もまた、お酒飲んでたみたいなんよ。

それでね、悪いんだけど様子見に行ってくれない? 病院か、施設か、今のままだと考えなきゃいけないと思うんよ。 それでなくても、あっちこっち悪いのに。 お父さん、膠原病の一歩手前なんよ。 膠原病って、難病だからね。 あと、目もね、左目だったと思うけど、何か悪いんだって。 あんまりよく見えないみたい。

あ、あと、車も今月末で廃車にしなきゃいけないんよ。 お父さん、あんなあっちこっち悪いから心配でもう車に乗せられないでしょ? ちょうど車検が今月までだし、この前帰ったときに廃車にするようにって言っといたんだけど、お父さんきっとやってないだろうからね。

お母さんが元気だったら自分で行くんだけど、最近ちょっと具合が悪くてね。 なんか心臓が痛かったりするし、夜もあんまり寝られないんよ。 こないだは一人じゃなかったから大丈夫だったけど、今一人で広島まで行くのは無理だと思うんよ。 だから、悪いんだけど会社休んで、広島に行ってみて欲しいんだけど。

だそうだ。

すぐに、父に電話してみた。 出ないかと思ったらすぐに出たのだが、話す内容も声の調子も、確かにおかしい。 酒が入っているのだろう。 話している途中から涙声になり、 「みんなに挨拶したら、もう生きるのをやめようと思うんじゃ」 なんて言いだした。

今日は、父のところには叔母が行ってくれるそうなので、明日から休暇を取って広島に帰ることにした。 今日はそのための準備。 とりあえず来週の月曜日には一旦戻る予定で、後は様子次第。