裁判員制度のニュースを横目に昼を食べながら。
「どうなんですか? 裁判員制度って」
「まあ、面倒だよね」
「なんか、あんまり関わりたくないですよ」
「そうだよね。 って、それって裁く側で参加前提だよね?」
「あ、まあ、そうですね」
「裁かれるのはどう?」
「こっちが被告ですか?」
「そう。 世間知らずの秀才に裁かれたいか、世慣れた馬鹿に裁かれたいか」
「そう言われると、どっちも嫌だなぁ」
「だよね。 できるなら、裁かれるより裁きたい。 あ、五七五だ」
「でも、裁くのも、重いですよ」
「そうだよねぇ…。 ああ、そうそう、それで思ったんだけどね」
「はい」
「この先、テレビが完全デジタル化されるときの話なんだけど」
「2010年でしたっけ」
「そのぐらい。 そのとき受信機が買えない貧乏人には、受信機を配るんだって」
「そうなんですか?」
「まだ確定じゃないらしいですけど、そんな案があるらしい」
「へー。 僕にもくれないですかね」
「欲しい?」
「くれるんなら貰いますよ」
「じゃあ、あげる」
「やった」
「ちなみに、判決ボタンが付いてます」
「は?」
「只であげる代わりに裁判員です。 ってのはどうかと思うんだけど」
「あ、それはいいかも」
「まあ、裁判に限定しなくてもいいけどね。 受信機に投票ボタンを付けとくんだよ」
「はい」
「で、裁判チャンネルを見て、その後に有罪か無罪かに投票」
「なんでしたっけ、そーゆーの… 視聴者参加型?」
「そう、そんな感じ。 これなら、だいぶ軽く死刑に出来ると思うけど、どう?」
「投票しないかもしれないですよ。 ただ見てるだけで」
「一定期間内に投票しないと、テレビの画面がどんどん赤くなるんだよ」
「そうなんですか?」
「うん。 で、スピーカーからは、死刑死刑死刑死刑って聞こえてくる」
「嫌なテレビですね」
「最初は気のせいぐらいなんだけど、だんだんはっきりと聞こえてくるんだね」
「テレビきっちゃいますよ」
「勝手に点くよ」
「うわ、じゃあ電源プラグを抜きます」
「すると、すぐに電話がかかってくるんだよ。 『もしもし、死刑はまだですか? 』って」
「それ、死刑限定なんですか?」
「いや、いろいろ。 ああ、量刑も併せて投票できるようにすればいいのか」
「はあ」
「でも、結構いいと思わない?」
「まあ、否定はしません」
「国民投票とか、選挙とか、いろいろ転用が利くし」
「投票だと、不正と繋がりませんか?」
「生体認証と、えーと… 住民基本台帳だっけ? セットにしとくとか」
「なるほど」
「それで、この投票がワンセグ受信の携帯からもできるようにするんだよ」
「モバイルですか」
「そう。 モバイルでアクティブに」
「アクティブ?」
「そう、アクティブ。 世の中、嫌な奴が多いじゃん。 吸殻を道路に捨てたりとか」
「はあ」
「そんなとき、そいつに携帯のカメラを向けると、生体情報から誰かを特定するんだよ」
「ああ、何か見えてきました」
「うん、たぶん正解。 その場で死刑に一票」
「僕は罰金にしときます」
「まあ、量刑はそれぞれだけど。 で、有罪が一定数を超えたところで、判決確定、執行」
「過去は全て積算ですか? 閾値高くしとかないと危ないですね、誤解とか」
「その辺が難しいところなんだよね」
「でも、嫌な世の中になりそうですね」
「抑止力としては有効だと思うよ」
「そりゃそうでしょうけど」
「例えば、ヤンキーが誰かに絡んでるとするだろ」
「はい」
「周りに人だかりが出来るけど、せいぜいが警察を呼ぶぐらいで、まあ何もしないじゃん」
「しないって言うか、出来ないですよね」
「それがさ、これからは違うんだよ」
「有罪投票ですか」
「そう。 ヤンキーがふと周りを見回すと、全員がこっちにカメラを向けてるんだよ」
「結構怖いですね」
「だろ? あ、これ、虐めにも使えるな」
「そこで『使える』なんて言うと、これまでの話が台無しですよ」
「あ… ははは」
実際、どうなんだろうなぁ、裁判員。 裁判官3人と、無作為抽出の裁判員6人という構成だそうだが、無作為抽出で6人ってのは少なすぎじゃないだろうか。 馬鹿揃いになってしまう可能性が高いような気がするのだが。 一事不再理が原則の刑事裁判なんだから、もうちょっと、あと10人ぐらい増やして審理してくれないと…って、何で俺は裁かれる立場で考えてるんだ。