2007 05 22

DEATHVOTE

裁判員制度のニュースを横目に昼を食べながら。

「どうなんですか? 裁判員制度って」

「まあ、面倒だよね」

「なんか、あんまり関わりたくないですよ」

「そうだよね。 って、それって裁く側で参加前提だよね?」

「あ、まあ、そうですね」

「裁かれるのはどう?」

「こっちが被告ですか?」

「そう。 世間知らずの秀才に裁かれたいか、世慣れた馬鹿に裁かれたいか」

「そう言われると、どっちも嫌だなぁ」

「だよね。 できるなら、裁かれるより裁きたい。 あ、五七五だ」

「でも、裁くのも、重いですよ」

「そうだよねぇ…。 ああ、そうそう、それで思ったんだけどね」

「はい」

「この先、テレビが完全デジタル化されるときの話なんだけど」

「2010年でしたっけ」

「そのぐらい。 そのとき受信機が買えない貧乏人には、受信機を配るんだって」

「そうなんですか?」

「まだ確定じゃないらしいですけど、そんな案があるらしい」

「へー。 僕にもくれないですかね」

「欲しい?」

「くれるんなら貰いますよ」

「じゃあ、あげる」

「やった」

「ちなみに、判決ボタンが付いてます」

「は?」

「只であげる代わりに裁判員です。 ってのはどうかと思うんだけど」

「あ、それはいいかも」

「まあ、裁判に限定しなくてもいいけどね。 受信機に投票ボタンを付けとくんだよ」

「はい」

「で、裁判チャンネルを見て、その後に有罪か無罪かに投票」

「なんでしたっけ、そーゆーの… 視聴者参加型?」

「そう、そんな感じ。 これなら、だいぶ軽く死刑に出来ると思うけど、どう?」

「投票しないかもしれないですよ。 ただ見てるだけで」

「一定期間内に投票しないと、テレビの画面がどんどん赤くなるんだよ」

「そうなんですか?」

「うん。 で、スピーカーからは、死刑死刑死刑死刑って聞こえてくる」

「嫌なテレビですね」

「最初は気のせいぐらいなんだけど、だんだんはっきりと聞こえてくるんだね」

「テレビきっちゃいますよ」

「勝手に点くよ」

「うわ、じゃあ電源プラグを抜きます」

「すると、すぐに電話がかかってくるんだよ。 『もしもし、死刑はまだですか? 』って」

「それ、死刑限定なんですか?」

「いや、いろいろ。 ああ、量刑も併せて投票できるようにすればいいのか」

「はあ」

「でも、結構いいと思わない?」

「まあ、否定はしません」

「国民投票とか、選挙とか、いろいろ転用が利くし」

「投票だと、不正と繋がりませんか?」

「生体認証と、えーと… 住民基本台帳だっけ? セットにしとくとか」

「なるほど」

「それで、この投票がワンセグ受信の携帯からもできるようにするんだよ」

「モバイルですか」

「そう。 モバイルでアクティブに」

「アクティブ?」

「そう、アクティブ。 世の中、嫌な奴が多いじゃん。 吸殻を道路に捨てたりとか」

「はあ」

「そんなとき、そいつに携帯のカメラを向けると、生体情報から誰かを特定するんだよ」

「ああ、何か見えてきました」

「うん、たぶん正解。 その場で死刑に一票」

「僕は罰金にしときます」

「まあ、量刑はそれぞれだけど。 で、有罪が一定数を超えたところで、判決確定、執行」

「過去は全て積算ですか? 閾値高くしとかないと危ないですね、誤解とか」

「その辺が難しいところなんだよね」

「でも、嫌な世の中になりそうですね」

「抑止力としては有効だと思うよ」

「そりゃそうでしょうけど」

「例えば、ヤンキーが誰かに絡んでるとするだろ」

「はい」

「周りに人だかりが出来るけど、せいぜいが警察を呼ぶぐらいで、まあ何もしないじゃん」

「しないって言うか、出来ないですよね」

「それがさ、これからは違うんだよ」

「有罪投票ですか」

「そう。 ヤンキーがふと周りを見回すと、全員がこっちにカメラを向けてるんだよ」

「結構怖いですね」

「だろ? あ、これ、虐めにも使えるな」

「そこで『使える』なんて言うと、これまでの話が台無しですよ」

「あ… ははは」

実際、どうなんだろうなぁ、裁判員。 裁判官3人と、無作為抽出の裁判員6人という構成だそうだが、無作為抽出で6人ってのは少なすぎじゃないだろうか。 馬鹿揃いになってしまう可能性が高いような気がするのだが。 一事不再理が原則の刑事裁判なんだから、もうちょっと、あと10人ぐらい増やして審理してくれないと…って、何で俺は裁かれる立場で考えてるんだ。