年末の気怠い空気が嘘のような忙しさ。 連日、深夜の帰宅。 とは言っても、忙しいのは他の人なんだけどさ。 俺は暇。 暇なのに帰れないってのもどうかと思うが、忙しいよりはいいか。 やりたいこともあるし。
その 「やりたいこと」 が一段落し、思いっきり背伸びをしていたときに、窓の外から町内会らしい放送が聞こえてきた。 「女の子が家に帰ってこないので、心当たりの人は連絡してほしい」 だそうだ。 女の子の年齢は10歳。 11歳だったかな。 (朝から? 学校に?)出かけたっきり、未だ帰ってこないらしい。 出かけたときの服装は…髪型は…と、その子の外見的な特徴などが続く。
見回せば、他の人たちも手を止めて放送を聴いていた。 やまびこと空調の音とで聞き取りにくいその放送を、結構真剣な顔で。 その場には、結婚して子供がいる人と独身とがちょうど半々。 子供がいる人の方がより真剣に心配しているように見えたのは、気のせいではないだろう。 ああ、 「子供がいない」 で一括りにするのは良くないか。 少なくとも俺よりは、だな。 俺だってもちろん、子供が無事に見つかればいいと思う。 確かにそう思う。 でも、そう思う一方で、野次馬的な興味があることも否定できないんだよね。
2時間ぐらい置いて再度の町内放送があった後、今日も遅くなるからと父に電話するが、出ない。 何度か掛けなおして、ようやく電話に出た父は、弱弱しい声で呂律も回らない状態だった。 酒を呑んで寝ていたのだろう。 俺が遅く帰る日が続くと、だんだん酒量が増え、様子がおかしくなっていく。 そろそろ拙いかもしれないな。 明日は早く帰ろう。 何があっても早く帰ろう。
そんなことを考えながらも、今日家に着いたのは12時前。 いつも9時には寝てしまう父は、当然もう自室で寝ている。
着替えて、何か食べようとリビングの明かりを点けて…おっとその前にトイレ…と、トイレのドアを開けたら、床が水浸しになっていた。 何かを溢したのか、それとも漏らしたのか。 しょうがないので、食事の前にトイレ掃除。
適当に片付けて、ちょっと一息。 この状態でシーンとしているのも気が滅入るし、テレビでも点けるか。 今日の新聞は…と和室に足を踏み入れると、こっちも何だか湿っている。 湿っていると言うか、もうはっきりと濡れている。 濡れているのは、コタツの敷布。 捲ってみると、その下のカーペットも濡れていた。 カーペットを捲ってみると、その下の畳も濡れていた。 まだ新しいのに。 濡れているのがちょうど座る位置だけに、これは漏らした可能性が否定できないな。 しょうがないので、食事の前に湿気とり。 畳の濡れている部分は、新聞を敷いて軽く踏む。 敷布とカーペットも新聞紙で水気を軽くとってから、縦にした炬燵に捲り上げて乗せておく。 明日の朝までに乾くかな。 乾かないだろうなぁ。
さすがにちょっと心配になって、父の様子を見てみた。 眠っている。 ちょっと酒臭い。 でも特に怪我は無いようで、それはまあ、よかった。 こっちに来る前に、酒は止めると言っていたのだが、やっぱり止められないんだろうか。 でも、タバコは止めたんだよな。 酒だって、止められないとは思えないんだけど。
こーゆーことがあると、嫌でも考えざるを得ないのが介護。 そう遠くない将来に始まるんだよなぁ…。